「ウチさ、去年の末からケーブルテレビが入ってるんだけど!」 魔王陛下のお言葉に、即座に「うん」と頷いたのは大賢者猊下。 ちょっと宙を見つめてから、「ああ、そうでしたね」と納得したのはウェラー卿コンラート。 何のこっちゃさっぱり分からん顔のアーダルベルトとグリエ・ヨザック。思いは同じだが、でもそれを礼儀正しく表情にも言葉にも表そうとしないのがスールヴァン・ガスールとフォングランツ卿エドアルド。 「おれ知らなかったんだけど、それにさ、何と時代劇専門チャンネルってのがあるんだよね!」 うんうん、と頷く猊下。「坊っちゃん、時代劇好きですもんね」と微笑む閣下。やっぱり何のこっちゃ分からん4名。 信兵衛さんって、それでやってた昔の時代劇の主人公なんだ。 そこまで話が進んだところで、村田がいきなり「しんべさんのなーがやーはじゅうろっけん!」と歌い出した。きょとんと見つめるギャラリーに、ようやく村田が「ミツエモンの好きなお芝居の話だよ」と解説(?)を始めた。 「今のはそのお芝居の主題歌さ」 まだよく分からないながらも、とにかく頷く4名に、自分の説明不足に気づいたらしいユーリが「そうそう! お芝居だよ、お芝居!」と補足(?)する。 「信兵衛さんは江戸の……あーと、とにかく街の…裏長屋って何て説明するんだ……? えっと、貧しい人達が集まって暮らしている場所で、やっぱり貧乏だけど、皆と仲良く元気に暮らしている浪人…あー……主君を持たない武人、なんだ」 「…ふむ、確かに主を持たぬ武人は、道場の師範にでもならぬ限り、なかなか日々のたつきを得ることが難しいですからのう」 ガスール老人がしみじみと頷く。 「そうなんだ! で、信兵衛さんは、一緒に暮らしている人達から、おさむらい、じゃない、武人なのに気取ったり偉ぶったりすることもなく、優しくてとっても良い人だって好かれてるんだ。ただ、武人のくせに剣が遣えなくて、弱虫で、ちょっと頼りないって思われてるけど」 「違うんですか?」 エドアルドに質問されて、うん、とユーリが頷く。 「本当は違うんだ! 信兵衛さんは、ホントはものすごい剣の達人で、ただそれをひけらかしたりするのが嫌いなだけなんだ。剣が強いから立派な人だって、そんな風には思ってないっていうか……」 ほうほう、と頷くギャラリー。 「で、道場破りなんだけど、これって腕自慢の武人が道場にいきなりやってきて試合を申し込むことで……」 「おお、飛び込み稽古でございますな。それならば、かつては我が道場にも毎日の様にやって参りましたぞ! 大抵は我らが圧勝。ほうほうの態で逃げ出す者もいれば、ぜひ弟子にと申し出て参る者もそれは数多く……」 「うん。でも道場破りっていうのは、腕試しや修行のための他流試合とちょっと違って、門人や師範を全員打ち負かしてから道場の乗っ取っちゃったり、負けたことを言い触らされたくなければ金を出せって脅迫したり、道場の看板を持ってっちゃったり、道で燃やしちゃったり……あんまり良いイメージ……良い感じじゃないんだよね」 「……脅すのは分かるが、わざわざ看板なんぞ外してって何をしようってんだ? かまどの焚付けにしたって妙だろうが」 不思議そうなアーダルベルトに質問されて、ユーリは「……う」と詰まった。そもそも「道場」と「看板」について、彼らの理解とイメージの間には深くて広い河が流れている。 だがそこで、意外な理解者の声が上がった。ガスール老人だ。 「いやいや、全ての門人が打ち負かされた上、その者の手で我が道場の看板が外されたならば、ましてそれを人々の前で燃やされようものなら……その屈辱感たるや耐えがたきものであろうと存知まする。万一そのようなことが我が身に起きたとすれば、わしは……その場で自害いたしまする! とてもではござらぬが、そのような生き恥を晒して生きながらえることはできませぬ!」 言いながら興奮してきたのか、ガスール老人が拳を握って怒鳴った。 「あ、あの、お爺ちゃん、落ち着いて、落ち着いてね? ね? ……えっとー……でもって、その信兵衛さんなんだけど、この人も道場破りをするんだけど、信兵衛さんの場合は何より人助けのためにどうしてもお金が必要な時にやるんだよね。で、道場に行って、門人をどんどん倒していって、そして道場主にまで行き着いて、戦い始めたところで交渉を始めるんだ」 「……交渉?」 「そう。剣を交しながら、お金の交渉を道場主とするんだよ。で、折り合ったところで信兵衛さんは華々しく負けて見せるんだな。さすが先生! おみそれいたしました〜! って」 はあ……とよく分からない顔で首を捻るアーダルベルト、ヨザック、ガスール老人、エドアルド。 「お金は、道場主の師範からすれば、全然大したことのない額なんだよ。で、ちょっとしたお金を出すことで、師範は面目が立つし、道場の門人たちは自分達の先生が強い人だと分かって満足するし、信兵衛さんは必要なお金が手に入るし、皆満足、八方万々歳! ってことで……」 「つまり……勝ちを金で贖おうと!?」 ガスール老人が、いきなり顔を真っ赤にさせ、声を張り上げた。 「とんでもないことでございまするっ! 金で贖うた面目など……そのような師範に道場を構える資格などございませぬっ! 目の前におりましたならば、わしが懲らしめてやりましょう程にっ!」 「あ、いや……これはほのぼのコメディだから……」 「方々肥溜めだろうが何だろうが………まっ、まさかっ、我が孫に勝ちを譲るゆえ、金を出せと仰せで……っ!?」 真っ赤だった老人の顔が、今度は真っ青になったかと思うと、目を剥いて呻いた。 「ちっ、違う! 違うよっ! そうじゃなくてー……」 「つまり、さりげなく勝ちを譲って、道場主の面目を護ろうってことだよね?」 焦るユーリの傍らから、村田が冷静な言葉を挟んだ。そして、老人の肩に手を置き、「彼があなたにお金を要求するなんてあり得る? 落ち着いてね?」と、優しい口調で囁いた。が。 老人が賢者の目を覗き込んだ瞬間、ひくぅっとその萎びた喉が鳴った。目がさらに大きく広がる。 おや? と見つめるユーリ達の前で、老人の唇が、目元が、そして肩が、やがて全身が瘧の様に震え始めた。 「…………も………ももも……」 ガスール老人の小さな身体がベッドの中でぴょんと跳ねた、かと思うとそのままユーリの真正面に向き、いきなり平伏した。 「申し訳ございませぬっ!! わ、わしは、いま……とんでもない無礼な口を……!」 この上は死んでお詫びをっ! 一声叫んで、老人はベッドから飛び降りようとした。咄嗟に抱きか抱えて止めるアーダルベルトとユーリとエドアルド。 「………何やったンですか…?」 村田にヨザックがそっと尋ねると、村田はひょいと肩を竦めた。 「何も? ただちょっと怒った顔をして、ちょっとキツめに睨んだだけ」 ……そりゃ怖ぇわ。 叡智に優れた慈悲深き聖職者、偉大なる大賢者猊下は、魔王陛下を貶める者に一切容赦がない。例えそれが気の毒な老い先短い老人であろうと。 ヨザックとコンラートはそっと目を合わせると、ほうっと息を吐き出した。 「おれ、説明が下手くそだから……。ごめんね? でもおれが言いたいのはお金のことじゃ全然ないんだ。とにかく落ち着いて、お爺ちゃん。ね?」 「そういや婆さんが昔言ってたな。ガスールの疾風は火の玉だってな。頭に血が上ったら最後、あっという間もなくすっ飛んで行く。暴走を止めるために一体何度張り倒したことかとさ」 「………申し訳ございませぬ……」 ユーリとアーダルベルトに両側からしみじみと言われ、ガスール老人ががっくりと肩を落した。 「大先生、水を……」 エドアルドがグラスに水差しの水を注いで老人に差し出した。その水を飲み、老人がホッと息をつく。その姿に、ユーリもホッと肩から力を抜いた。 「えーと。じゃあ話を元に戻すね? おれが信兵衛さん方式って言ったのは、さっき村田が言った通り、道場主の、つまりフェルさんに勝ちを譲って、フェルさんと、この道場の面目は守ろうっていうことなんだ」 「手っ取り早く言うと」ヨザックがちょっと不満な顔で口を開いた。「俺達にわざと負けろってことですね?」 「手っ取り早く言うとー……そうなんだ。一応フェルさんにだけはさりげなく……。ホントはさ、おれだって、たとえわざとだって二人の負ける姿なんか見たくないよ? だってさ……」 おれのコンラッドはいつだって世界一強くて、世界一カッコ良いんだもんな。 小さくボソッと呟かれた言葉に、耳の良いコンラートの目じりから頬がほろっと溶ける。隣で、「あーあ、これでますます……」と小さくボヤく幼馴染。 ちろっと上目遣いで見上げたユーリは、そこにコンラートの(慌てて顔に貼り付けた)優しい笑みを見つけてホッと口元を緩めた。 「でも、ここはやっぱりこの道場の面目を護ってあげたいって思うんだ。これもご縁っていうか、せっかく知り合ったんだし、それにここはエド君ちの大事な師範の道場だし。それにフェルさんが道場主を継いで、まだ日が浅いんだろ? だったらこれから頑張って盛り立ててもらいたいって思う」 身に余る光栄……。ガスール老人が声を詰まらせ、ベッドの上で平伏する。その枕元に立つエドアルドも、「ありがとうございます」と頭を下げた。 「だがなあ」 そこでふいに野太い声が割り込んできた。見ればアーダルベルトが、部屋のテーブルに行儀悪く腰掛け、難しい顔で腕を組んでいる。 「俺の家の指南役じゃあねえが、このじいさんには昔から世話になってる。だから面目が立つようにしてやろうってぇのはありがたいが……。あいつら、コンラ、あー……どう呼べって?」 「カクさん」 「……何なんだ、そりゃ……。まあいい。あいつら、そのカクサンを剣なんぞ振れねえ優男だと思い込んでるんだよな?」 「……どこから聞いてたんだよ?」 「どうでもいいだろ? ったく、俺が言うのも何だが、いくら修行ができなかったからって、じいさん、こりゃちょっとひど過ぎやしねぇか? こいつがただの優男にしか見えねぇってのは……」 「仰せの通り……お恥ずかしゅうございます……」 「フォングランツ卿、話がズレてるよ? それで?」 だから。村田に向けてアーダルベルトが肩を竦める。 「やっぱりここは面目がどうこうじゃなく、きっちり実力を思い知らせるのが良いんじゃねぇのか? 縁っていやぁ、この2人がここに、この時期にやってきたってのも、考えようによっちゃ縁ってものじゃねぇか。正直、実力もないのにグランツの家の師範を務めるのはどうかと思うしな。叔父貴がどう考えているのかは知らんが、叔父貴の家のためにもならんし、フェル達のためにもならんだろう? 自分の実力をきっちり自覚した上で、その負けっぷりによっちゃあ叔父貴の家の師範を退くのが筋ってもんだろう」 「正論だね」 村田が頷く。視線の先では、ガスール老人ががっくりと肩を落とし、ますますその身体を小さく見せている。 「ねえ、ガスールさん?」 村田の呼びかけに、老人の肩がピクリと揺れた。 「確認したいんだけど、フェルさんの実力は実際どの程度なのかな? あなたの口ぶりから察するに、この道場一の腕の持ち主とは思えないけれど」 「仰せの通りでございます」 ぐったりと老人が頷く。 「この道場でもっとも確かな腕を持っているのは師範代筆頭のトーランでございましょう。すでに200歳になろうとしておりますが、戦を生き延び、腕はさらに磨きが掛かっていると思いまする。派手な剣ではございませぬ。地味な、だが粘り強く、確かな剣でございます。フェルやルイザも、もちろんヴァンセルも、トーランにはとても敵いませぬ。此度の大会におきましても、トーランならば上位に食い込む可能性もなくはないかと……。本来ならばトーランに跡を継がせるべきであったのですが、あれが自分は道場主になる器ではない、むしろフェルの支えとなりたいと申し出てくれまして……。おそらく孫大事のわしの思いを汲み取ってくれたのだろうと思いますが、それを分かった上で、わしはその申し出に飛びつきました……」 「で? フェルさんは?」 「はい。決して弱くはございません。むしろわしの目から見ても、良く遣う方だと思いまする。ですが、ただ……それだけなのです」 「それだけ?」 「はい。なかなか上手く剣を振る。基本に則った、正統な、そう、真っ直ぐな剣です。ですが、ただそれだけです。基本と基本、正統と正統の対戦となれば、あれは必ずや勝ちを収めるでありましょう。なれど実戦となれば、もしもかつての様な戦が起これば、フェルが生き延びるには眞王陛下のよほどの御加護が必要でありましょう」 「つまり、腕が立つといっても、所詮は道場剣法ってこったろ?」 アーダルベルトが肩を竦める。 「ふー…ん。なるほどね。じゃあ彼は自分の実力がトーランさんには及ばないことはちゃんと自覚してるんだね?」 「それはもちろん。故に、少々焦ってもいるようです」 「それともう1つ、もしカクさんとスケさんがわざと負けた場合、フェルさんとトーランさんは気づくかな?」 それは……と、眉を寄せた老人がわずかに首を捻った。 「お2人がどのように負けてみせるかによりまするが、フェルはさておき、トーランは気づくと思いまする。1人前の、本物の武人であれば、手を抜かれて気づかぬなどということはあり得ませぬ。トーランは、『グランツの勇者』にはなれぬでしょうが、それでも本物の武人でございますれば……」 「そうか。……で? ミツエモンはやっぱり道場の面目を護って、フェルさん達がエドアルド君の家の師範のままでいてもらいたいと思う?」 「う……うん。……自分の実力をちゃんと知るっていうのは大事だと思うよ。ただ……コン、あっと、カクさんとスケさんっていう、その、実力段違いの人にいきなりコテンパンにやられちゃってっていうのは……成り行きとはいえ、あんまり気の毒っていうか、押し掛けてきた立場としては申し訳ないというか……そもそもエド君の家の師範って問題についてはおれ達部外者だし。えっと、最初っから実力段違いって決め付けるのも悪い気がするけど……」 「とんでもございませぬ」 ベッドの上の老人が静かに、呟くように言って頭を下げた。 そこで、「はい!」という声と共に、村田がポンポンと手を打ち鳴らした。 「それじゃそろそろ方針を決めるとしようか」 「おう! やっと来やがった……とと……!?」 「アーダルベルト……様!?」 ユーリ達一行とガスール老人、そしてアーダルベルトが連れ立って練習場にやってくると、大きく手を振って合図したのは少々待ちくたびれた様子のヴァンセルだった。すぐ側にはフェルとルイザも立っている。そしてもう1人、フェルとヴァンセルより幾分小柄ではあるものの、がっちりとした体つきの男が1人、その場に立っていた。日に焼けた身体も顔も、ごつごつとした巌のような印象の男だ。フェル達より、年齢はかなり上に見える。彼が師範代筆頭のトーランだろうとユーリは踏んだ。 まさかアーダルベルトが加わっているとは予想もしなかったのだろう。全員驚きの表情でユーリ達を見ている。 「よ。久し振りだな」 気さくに声を掛けるアーダルベルトに、一瞬虚を衝かれたようにぽかんとしてから、フェルとルイザは真逆の反応を示した。 「……こ、これは……お久し振りでございます、アーダルベルト様。その……申し訳ございません。まさかお出であそばされたとは存じず、お迎えもせずに……」 そう言ってフェルが頭を下げれば、ルイザはツンとそっぽを向く。 「通り掛ったからちょいと寄っただけだ。久し振りにじいさんの顔を拝んでいこうと思ってな。気を遣わなくていい。……ルイザは相変わらず色気に無縁か」 笑いと共に言われて、ルイザがキッと眦を上げ、アーダルベルトを睨み上げた。 「余計なお世話をありがとうございますっ、アーダルベルト様っ!」 ルイザ! フェルが怒鳴りつけるが、ルイザは再びツンと顎をしゃくってそっぽを向いた。くっくという含み笑いが、アーダルベルトの口元から漏れる。 「まあ、いいさ。悪いのが俺だってことは分かってる。……トーラン、お前も変わりないか」 「恐れ入ります」 厳つい雰囲気とは裏腹に、穏やかな声がその男の口から漏れた。 「お久しゅうございます、アーダルベルト様。お帰りなさいませ、エドアルド様」 「元気そうだね、トーラン。……ええと、紹介するよ、王都で知り合った友人で、こちらがミツエモン、君。それからこちらがケンシロウ君。こちらのお2人はお供のカクノシンさんとスケサブロウさんだ」 「な? オヤジ。妙ちくりんな名前ばっかりだろ?」 横から口を出すヴァンセルをジロリと睨んでから、トーランはユーリ達に向かって頭を下げた。 「スールヴァン道場の師範代筆頭を勤めております、ゴルツ・トーランと申します。グランツにようこそお出で下さいました。……ヴァンセルの無礼、どうぞお許しください」 律儀に頭を下げるトーランに、「いえいえ」と手を振るユーリ達。 「ところで、これからこいつらに稽古をつけてやるって?」 「稽古などとそんな……」 「そうなんスよ」 アーダルベルトの問い掛けに、遠慮深く否定しようとしたフェルを遮って、ヴァンセルが陽気な声を上げる。根っから前向きらしい男には、アーダルベルトに対する30年の恨みは残っていないようだ。 「仮にも護衛だってんならね、ちょっとは遣えないとなあ。こっちの可愛い坊っちゃん達には自慢のお供らしいけど」 「大自慢だぞ!」 そっくり返るほど胸を張り、腕を組み、ぷんと頬を膨らませてユーリが宣言する。 道場の面目を護るため、わざと負けてみせることを望んだとは思えない姿だが、ユーリ的には「それはそれ、これはこれ」らしい。 ユーリの様子に、ヴァンセルが「へへっ」と笑う。 「ホント可愛い坊っちゃんだよな。昔のエドアルド坊っちゃんみてぇだ。ま、こうしてせっかく一流道場に来たんだからさ、俺達が稽古をつけてやろうって思ってね」 親切心さ、親切心。 ニカッと笑うヴァンセルから嫌味は感じられない。本気で親切に稽古をつけてやるつもりなのだろう。 「ほれ、時間がもったいねぇや。さっさと始めようぜ!」 広い練習場で、スールヴァン道場の門人達が大きな輪を作っている。その一画で、前道場主のガスール老人、アーダルベルト、エドアルド、ユーリ、村田の5人だけが椅子─フォングランツの跡継ぎやその従兄弟、そして客人達を立たせたままにはしておけないということで、母屋から運ばれた─に腰掛けていた。 彼らが見つめる輪の中では、ヴァンセルとヨザックが剣を手に対峙している。 「いつでもいいぜ。俺の急所に剣を当てることができれば、それから…俺が負けを認めりゃああんたの勝ちだ。まあこれはあり得ねぇがな。ああ、勢い余ってホントに急所を刺したり切ったりするのはゴメンだぜ? 腕が悪いヤツほど弾みで妙な事をしでかすからな。つっても、俺の急所にそうそう剣を近づけることは………」 え? きょとんと、ヴァンセルが目を瞠り、ぱしぱしと瞬き、それから目の玉だけを動かしてソレを確認した。 ヴァンセルの首筋、太い血管が通るその場所に、刃が押し当てられている。 「……ちょ、ちょっと……!?」 「今…一体…?」 ルイザとフェルが驚きの声を上げる。門人達も一斉にざわめく。 肌に当る冷たい感触に、大きな目をさらに大きく見開いたヴァンセルが、その目をおそるおそる正面に立つ男に向けた。 「いつでも良いって言ったろ?」 ニヤリとヨザックが笑う。 「いつの間に……あそこまで間合いを詰めていたの……?」 ルイザの声が呆然と響いた。同じく呆然としたまま、フェルが首を左右に振った。 「分からない……分からなかった。ひどく……」 酷く無造作に、何となく男が動いた、ような気がしたが、ただそれだけで何も感じなかったのだ。気合の満ちる気配、剣を振るう気配。そのいずれもなかった。 気がついたら、男の剣がヴァンセルの首に押し当てられていた。 「………ちょ、ちょいと油断しちまったかな」 へへ、とヴァンセルが唇を歪める。 「まあ、なんだ、まるっきりダメダメってこともねぇ訳だ」 これからだぜ! 立ち直り良く明るい声を上げると同時に、ヴァンセルが後方に飛び退く。瞬間、男の喉を斬りそうになって、ヨザックは素早く剣を引いた。 「無鉄砲な野郎だな。いつか怪我するぜ?」 剣をだらりと下げて呆れた声を掛けるヨザックに、ヴァンセルが「今じゃねぇさ」と笑う。 「行くぜ!」 剣を構えたヴァンセルが地を蹴り、弾丸の様に飛び出した。 「速い!」 思わず腰を浮かせて叫ぶユーリ。 「ヴァンセルの持ち味はあの速さよ! おじいちゃんの『疾風』を継げるのはヴァンセルだけ。本気になったヴァンセルの剣を避けることなんて………え!?」 ヴァンセルの剣がすさまじい速さでヨザックに襲い掛かる。 だが右に左に襲ってくる刃を、ヨザックはギリギリの間合いで全て躱していた。 ヨザックの剣はだらりと下げられている。一見、ヴァンセルの攻撃の速さに、己の剣を構える暇もない様に見える。だが。 ヨザックの瞳は悪戯っぽく輝き、唇には楽しげな笑みが刻まれていた。 「ち、畜生…っ!」 ヴァンセルの陽気な顔が次第に引き攣ってきた。 剣を振り下ろし、薙ぎ払い、そして突く。 自慢の速さだ。これまで誰一人として付いてこれる者はなかった。皆が驚き、恐怖し、「疾風」の2代目として賞賛してくれた速さだ。それが……。 突然現れた妙な色をした髪の男は、ニヤニヤと笑いながら彼の剣を躱している。ギリギリの様に見えてギリギリじゃない。その表情、目の動き、余計な力が全く入っていない身体の様子、全てが余裕を証明している。 剣を下ろしているのも、ヴァンセルの速さに恐れをなしているからじゃない。必要ないからだ。 畜生っ! 再び叫ぶと、ヴァンセルは一旦引いた。 異様に荒々しい呼吸音が耳につく。 自分の息だと気づいて、ヴァンセルは愕然とした。これまで誰かと剣を交わしても、これほど息が上がったことはなかった。……汗が目に入る。痛い。 「降参かい?」 余裕の表情のまま、ヨザックが言った。剣を担いだ肩はピクリともしていない。 「……バカやろう……。この…ヴァンセル様が……降参なんぞ……」 するかよっ! 叫んで飛ぶ。 30年、それでも懸命に鍛えてきた身体だ。 飛んで、剣を振り上げ、ありったけの力を込めて男の明るい髪に向けて振り下ろした。 ギンっ! 鈍く鳴る鋼の音。 次の瞬間地面に膝をついたヴァンセルは、急に軽くなった両手を目の前に翳した。 手の中は空っぽ。何もない。 バカな。 思ったその時、首筋に覚えのある冷たい感触が蘇った。……錯覚、じゃあない。 膝をついたまま、目を背後に向ける。首がギリギリと鳴ったような気がした。 「降参かい?」 わざとだろう。同じセリフに胸がむかつく。ヴァンセルの喉から凶暴な音が漏れる。 男が、最初から少しも変わらない笑みを浮かべてヴァンセルを見下ろしている。瞳をほんのわずか動かせば、そこには紛れもなく鈍く光る刃。 ぐ、と歯を噛み締めたヴァンセルの目に、地面に突き刺さった自分の剣が見えた。 「……………ま、いった……」 呻き声、ため息。 無念を表すのか、それとも感歎を意味するのか、もしかしたら本人にもその意味が分からないかもしれないものが、一斉に練習場に溢れた。 「……信じられない……ヴァンセルが……」 これは紛れもない無念の声で、ルイザが呻いた。 それからルイザはぎゅっと拳を握り、キッと前方に立つ男を睨みつけた。 「次は私よ!」 宣言して前に進み出れば、夕焼け色の髪をした男はひょいと肩を竦めた。 「続けざまはゴメンだね。あんたは俺の相棒に任せるよ」 その言葉と同時に、ユーリ達の傍らに立っていた「優男」が動いた。 「お相手願います。どうぞお手柔らかに」 にっこりと人の良さそうな笑みを浮かべる細身の男に、ルイザの眉がきゅうっと寄った。 「あれ? 何か……」 感じたのは、妙な違和感。 ユーリがきょんっと首を捻った。 輪の中では、不愉快丸出しのルイザと、コンラートが剣を構えて対峙している。 そのコンラートが……何だか変だ。 「カクさんってば、いつから左利きになったのかな?」 村田がくすっと笑いながら言う。 「左……? ………あ!」 コンラートの構えが逆なのだ。 利き手を左にして、剣を構えている。 「俺達ってば、勝ちを相手に譲ったことはもちろん、弱く見せたことってないんですよね」 んなコトすると命に関るもんで。 戻ってきたヨザックが、椅子に座るユーリと村田の背後からそっと囁いた。 「おまけにカクさんってば、芝居がド下手なもんで」 「だね。究極の大根役者」 「むーらー……じゃない、ケンシロー!」 ジトっと相棒を睨むユーリ。 「なんで、逆手でやりゃあ少しは弱っちい優男らしくできるかな、と」 「あいつは左で剣を遣ったことがあるのか?」 アーダルベルトが声を潜め、視線をヨザックに向けて言った。 「頭はもちろん、両手両足、使えるモンは何から何まで使いこなさなきゃ生き延びられない時代もあったんでね。戦いの最中に利き腕をヤられちまうこともないわけじゃない。それでも生き延びたけりゃ逆を使わなきゃな。だもんで、かなりみっちり練習してた時期が……ああ、坊っちゃん、そんな顔しないで下さい」 ヨザックの声から皮肉な響きが消えたと思ったら、どこか慌てたように首と手を振り出した。 「昔の話なんですから。あいつもすっかり忘れてたくらいで……」 「うん……ごめん……。2人とも、ホントに辛い時代を生き延びてきたんだよなって思ったら……」 眉を八の字に落すユーリの隣で、エドアルドもまた何かを思うようにヨザックを見つめている。 「はいはい、その話はここまで。ほら、ミツエモン、始まるよ」 村田の声に、ユーリは慌てて身体を正面に戻した。 「ハッ!」 気合一閃、ルイザが一気に間合いを詰め、構えた剣を左から右に、薙ぐ様に斬り掛かる。 その刃をがっちりと受け止めるコンラート。 ルイザはすぐに剣を引き、半呼吸の間に突きに入った。即座に振り払うコンラートの剣。 さらに右に左に、振り下ろし振り上げ、ルイザの一方的な攻撃が続く。その攻撃にいかにも押されている様子で、コンラートがじりじりと後退している。 「なかなか上手く押されて見せてるじゃねぇか」 アーダルベルトがふんと鼻を鳴らして言った。 「でも……さすがカクさんだよな! 利き手じゃないのに、あんなに滑らかに動いてる。あれじゃ弱虫の優男には見えないよな!」 ユーリが言えば、村田も「だよね」と頷く。 「左で練習してたのはいつ頃の話?」 ちらりと背後に問えば、ヨザックが「そうですねえ」と視線を宙に向ける。 「戦争真っ盛りの頃でしたから、30年近く前ですよ? 少なくとも、戦が終わってからあいつが左で剣を遣うのを見たことはありません」 「そうなんだ。さすがだね。僕の目にも実に軽々と遣っているように見える…」 「バカ言ってんじゃねぇよ」 いきなりのアーダルベルトの不穏なセリフに、ずっと沈黙を護って様子を見ていたガスール老人とエドアルドが顔を引き攣らせた。 「アーダルベルト?」 「確かに、逆手であれだけ遣えりゃ大したモンだ。俺でもあそこまでは無理だな。だが、踏み込む瞬間や、剣を振るう瞬間に、わずかだが迷いがある。押されて見せてるのは芝居だが、やりにくいと思ってるのは確かだろう。利き手が逆になれば、構えから何から全部が逆になるんだ。いくら練習してたって30年も前のことならそれも仕方がないが……。とにかくアレじゃあただの『剣の達人』程度に過ぎねぇよ」 「………コンラッドは剣の達人、だろ…?」 「カクサンだろ? ご主人様が間違えちゃダメだぜ、坊主。……剣の達人なんぞいくらでもいる。ここにいるじいさんも昔はそうだったし、俺だって『達人』と呼ばれる自信はあるぜ? だがあいつは違う」 「違うって……?」 きょとんと自分を見上げる魔王陛下に、アーダルベルトは苦笑を浮かべた。そして答えを返さないまま顔を正面に向けた。 あの男の、あの時代の、あの凄み。 アーダルベルトは、「弱く見せるってどうすれば……?」と困った顔でルイザの剣を躱すコンラートを見つめながら、その緊迫した時代の彼を思い出していた。 斜に構えてみせるような子供っぽい真似はしなかった。いつも礼儀正しく、言葉穏やかに、目立たぬよう、人の後に静かに立っていた。非の打ち所のない礼節と、冷たい無関心、無感動という鎧を纏って。 だが、あの瞳の奥に、時にはその背に、時折隠しきれない焔が燃える瞬間があることをアーダルベルトは知っていた。 すれ違った瞬間、頬を灼かれるような痛みを感じたことがある。あの男が纏う焔の残滓に。 同時に、生半可な武人や為政者など、一瞬で切り裂くほどの圧倒的な力を湛えた凄みにも。 コンラートの凄みは、死地を己の力で切り開きながら、同時に人の上に立ち、人の生命を背負う、その意味を知る者ならではのものだ。 あの男の持つ「戦時の指導者」としての器に、王や摂政は足元にも及ばなかったし、彼らはそもそもあの男の恐ろしさを感じ取ることすらできなかった。 それを感じ取ることができるものはあの男を認めた。認めざるを得なかった。 混血と卑しめたのは、観る目を持たないか、もしくは観ようとしない者だけだった。 今は。 焔も凄みも、全てを人の良さそうな笑みの下に包み込み、均し、なかったことにしている。 当代魔王が、このいまだ未熟な少年が玉座にある限り、それは押し殺されることも溜められることも撓められることもなく、穏やかな眠りについているのだろう。 だが。 それは決して消えない。消えることはない。 「う〜〜〜…。コンラッド…じゃないカクさんが負けそうになってる姿なんて、やっぱ見たくねー」 今にも地団駄踏みそうな様子でユーリが呻いた。 「負けないよ。少なくとも彼女には」 「やっぱおれ、間違ってたかな。アーダルベルトが言ってたみたいに、せっかくコン…カクさんやスケさんと試合する機会に恵まれたんだから、思いっきり本気で打ち合って、自分の実力をきっちり把握することが大事だったんじゃないかな。それでもし……エド君ちの師範の資格がないって判断されたとしても……」 「そんな責任まで君が背負うことはないよ」 村田がユーリの言葉をさらりと否定した。 「これはゲーム。楽しめばいいのさ。ほら、カクさんのあの困った顔。ホント芝居が下手だよねえ。たぶん押されて見えるのはお芝居じゃないよ。彼は君の望みは何だろうと完璧に叶えたいと考えてるからね。どうすればさりげなく、偶然たまたま勝てましたって形で彼らの面目を保ってやれるのか、多分そっちの悩みに没頭してるんだよ」 「つまり……ルイザさんの剣を躱してるのはー……条件反射?」 「たぶんねー。それにさ、彼らが自分の実力を知る機会はすぐ、3日後にやってくる。エドアルド君の家の師範を続ける資格があるかどうか、イヤでも応でも自分達で判断する日がやってくるさ」 「そう言われたら……そっか」 「そうそう」 「父は」 そこでふいにエドアルドが言葉を発した。 ユーリと村田の視線を受けて、「申し訳ありません、いきなり」と頭を下げてから、改めて口を開いた。 「大先生に命を救われたことがあるんです」 「おじいちゃんに?」 「はい。もうかなり昔のこと、まだ独身だった青年時代の話ですが、父が見聞を広めるために人間の国を巡っていたことがあったそうです。なぜ人間がこうも魔族を忌み嫌うのか、魔族の本当の姿を知ってもらいたいと願って、ことさら反魔族の意識が強い国に入りました。それもほんの2、3人の供だけを伴って……。若気の至り、甘ったれた若造の浅はかな行為だったと今は言っていますが、父はその国で人間達によって私刑にあいそうになったのです。人間の武人達、それも20人以上の男達に囲まれ、もはやこれまでかと覚悟したその時、大先生がたった一人で飛び込んできて父を救ってくれたそうです。大先生は当時まだ存命だった父の父、つまり僕の祖父に頼まれ、父の影供を務めてくれていたのです」 「すげー。さすがグランツが誇る武人だな!」 ユーリの素直な賞賛に、エドアルドが「はい」と嬉しそうに頷いた。「あの叔父貴がそんな無茶をね。結構頼もしいじゃねぇか」と隣のアーダルベルトが笑っている。 「ですから、父はこのままスールヴァン道場に我が家の武術師範を勤めて欲しいと考えています。僕も……。実力を知ることの重要性は分かっていますし、これからのことは猊下も仰せの通りですが、でも……陛下が道場の面目を護ろうと仰って下さって、僕、とても嬉しかったです」 ありがとうございました。 そっと頭を下げるエドアルドに、ユーリは「エド君、言葉遣いを間違ってるぞ」と注文をつけながらも満面の笑みを返した。 「あ、ほら、そろそろだよ」 村田に言われてハッと正面を向けば、コンラートとルイザが間合いを取り、真正面から対峙しているところだった。 コンラートの目はきちんとルイザを見ている。 「考えはまとまったかな?」 楽しそうな村田の呟きが聞こえたかのように、その瞬間ルイザが飛び出した。コンラートの剣に力が籠もる。そしてやはり前に踏み出……そうとしたところで、何かに蹴躓いたようにコンラートがコケた。 「「「あ!?」」」 戸惑ったのか、ルイザの剣がわずかに揺れた。その時、コンラートの剣がルイザの剣と「ぶつかり」、跳ね飛ばした。 「…あ……!?」 呆気に取られた顔で、ルイザが棒立ちになる。どこか気の抜けた、失笑気味のざわめきが門人達から上がった。 「ちょっと……嘘!」 一声叫んでから、ルイザがキッとコンラートを睨んだ。 「こんなの弾みだわ! 勝負じゃないわよ! やり直すわよ!」 「あー……でも一応あなたは剣を落したわけですし。ね?」 頭を掻き掻き、申し訳なさそうに笑うコンラートに、ルイザの眦がキリキリと上がる。 「……なあ、コン、カクさんがコケたの、わざと、だよな?」 「君にまで見破られちゃあね。うわー、やっぱり大根」 「じゃなくて! コ…カクさんがああいう場面でコケるなんてあり得ねーの分かってるからさ!」 「まあそんなトコだろうけどね」 くすくすと村田が笑いながら言う。からかうなと頬を膨らませるユーリ。 「というか」アーダルベルトが首を捻る。「あそこまで弱いと思わせる必要があるのか? っていうか、あれじゃあ実力を思い知らせるってもう1つの目的が果たせてねえじゃねえか」」 「あはは、確かに」村田が頷く。「でも言っただろ? 彼はミツエモンの願い『だけ』は完全に完璧に叶えずにはいられないんだよ。時々傍迷惑なんだけどね。つまり彼は今、剣の達人なのに弱虫だと周囲から思い込まれている信兵衛さんを必死で演じているのさ」 「あー……あの、でも!」エドアルドが急いで口を挟んだ。「これでグリ…スケサブロウさんより弱いという設定は完璧になりましたよね!」 「あ! そうそう、そうだよな! うん、さすがカクさん、お芝居結構上手いよな!」 手を取り合って喜び合う様子のエドアルドとユーリに、村田が肩を竦めた。 「ホントに君って彼に対しては一生懸命だね。……エドアルド君、目が泳いでるよ?」 う……とエドアルドが固まった。 「冗談じゃないわ! こんなの負けとは認めないわよ!」 納得しないルイザが、さらにコンラートに詰め寄る。だが。 「いい加減にしなさい、ルイザ」 トーランの落ち着いた声がルイザの動きを遮った。 「でもトーラン!」 「どうあれ負けは負けです。お気をつけなさい。3日後の大会において、剣を落していながら負けを認めないなどと主張しても、それこそ誰からも認められません。それにこれが戦場ならば、文句を言う前にあなたは死んでいます。それから……」 悔しげに唇を噛むルイザをそのままに、トーランの目がコンラートに向いた。 ……おっと。 冷静な様子のその男の目に、かすかな怒りが瞬いたのをコンラートは見逃さなかった。 どうやら自分の演技が見破られてしまったらしい。 かすかに苦笑を浮かべると、コンラートは一礼してその場を去った。 「どうでした? 坊っちゃん。俺としてはかなりさりげなく、剣の遣えない優男を演じたつもりなんですけど」 「う、うん! カクさん、ホント信兵衛さんぽくてびっくりしたよ」 「でしょう? でもあのトーランという男にはバレたようです。睨まれてしまいました。さすが観る目がありますね」 いやー、あれを見破れない方が問題……とまで呟いたところで、村田の足が親友に蹴っ飛ばされた。エドアルドが慎み深く目を逸らす。 「ほんじゃあまあ、カクさんが見事な演技をかましたところで、俺もさりげなくやってきましょうかねー」 吹き出しそうになるのを懸命に堪えながら、ヨザックが進み出た。 「オヤジー! いっちょ頼むぜー!」 ヴァンセルの掛け声が響く輪の中、トーランとヨザックがスッと剣を持ち上げ、構えた。 →NEXT プラウザよりお戻り下さい。
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