「大会はいよいよ明日に迫った! 目出度くも、今大会は魔王陛下、そして大賢者猊下という我が国の至高の座にお座りあそばすお2人にご覧頂ける、歴史上記念すべきものとなった。この栄誉ある大会に参加できる我々は実に幸運である! 皆、準備の怠りなきように! 明日からの皆の活躍に期待しているぞ! ……だが、張り切りすぎて、明日を迎える前に怪我などするんじゃないぞ?」 高揚感に目をキラキラさせていたシュルツローブ道場の門人一同が、ドッと湧いた。 ついに明日は30年ぶりの武闘大会が開催されるというこの朝。 道場主シュルツローブ・エイザムは勢ぞろいした門人達を前に檄を飛ばしていた。 コンラートはすでに別格の扱いを受け、師範でもないのに師範列に並んでいる。ついでにユーリも一緒にその場にいた。 「シュルツローブ道場の歌」を一緒になって歌い(歌詞を覚えていない二人は口パクで)、解散となったところで、エイザムがガスリーを伴ってコンラート達の元に歩み寄ってきた。 「昨日は申し訳ありませんでした」 エイザムが口を開く前に、コンラートが謝罪をし、頭を下げた。ユーリも急いで頭を下げる。 わずかに渋面を作ったエイザムが、それでも頷き、唇の端を小さく上げた。 「いや、気にしなくて良い。若様の取り成しで、殿もあれから機嫌を直されたしな。君が素晴らしい腕の持ち主であることは確かなのだから、大会でそれを発揮してくれればそれで良い。頼んだぞ、カクノシン」 はい、と軽く目礼するコンラートに、「最後の追い込みで、あいつらを頼む」とガスリーが声を掛けてきた。 あいつら、と言った時のガスリーの声が笑っている。 それに気づいたコンラートとユーリが、ガスリーの見ている方向に目を向けると。 若手の門人達が20人ばかり、巨大なお団子になって揉みあっているのが見えた。 どうやら我先にと飛び出そうとする者を、後になった者が押さえつけ、さらに前に出ようとした者をまた誰かが引き戻すということを繰り返していて、結局全員が同じ場所から1歩も前に出られず、押し合い圧し合いになっている。その中にはフィセルはもちろん、バッサやイシルもいて、ものすごい形相で前に出ようと頑張っている。 ユーリとコンラートの耳に、「てめぇなんか練習するだけ無駄だ!」だの「お前ばっかりズルいぞ!」だの、果ては「俺はカクノシンの親友だぁ!」というバッサかイシルらしい喚き声が飛び込んでくる。 「今日は何としてもお前に稽古をつけてもらいたいそうだ。フィセルばかりずるいと声が上がってな。実は昨夜から、フィセルと若手の間で、カクノシンを譲れ譲らないの争いになっている」 「……譲るって……」 「カクさんは誰かの持ちモンじゃないぞー」 「強いて言えば………のものですけど」 最後の方だけそっと囁かれて、ユーリは思わずコンラートの横腹を肘打ちしてしまった。 痛いなあ、と、痛くも何ともない声が笑っている。 「カクノシン」 エイザムがコンラートを呼んだ。 「実は、昨夜若殿イヴァン様から使いが送られてきたのだよ。ウェラー卿に確認したところ、カクノシンは間違いなくルッテンベルク師団の一員だったことが分ったとな。何でも、ウェラー卿とは親しくしていて、今もしょっちゅうお会いしているそうじゃないか! 道理で殿の仰せに平然としていたはずだ。それを聞いて、フィセル達がますます興奮してしまってなあ」 さすが、主の最高の援けとなることを誇りにするレフタント家の嫡男。きっちりとフォローしてくれていたらしい。まだまだ若さが牙の様に突出しかねない危うさがあるが、これで人格が錬れてくれば、いずれグランツの立派な懐刀となるだろう。 ……おかげで、フィセル達の思い入れがますます強くなってしまったが。 そっと苦笑を浮かべて、コンラートはいまだお団子状態でもみ合うフィセル達に顔を向けた。 □□□□□ 「あのー……良いですか?」 そっと声を掛けると、振り返って自分を見た目が瞬間驚いたように見開かれた。 「どうした、ミツエモン。……カクノシンに用事か?」 自分にこの子供が一体何の用だろうと、目が怪訝に顰められているが、掛けられた声は穏やかだ。 いえ、と首を振って、ユーリはエイザムの傍らに歩み寄った。 広場では所狭しと門人達が溢れ、練習に励んでいる。いつもは広場の外れに立ち、全員の稽古に目を配っていることの多いガスリーも、今日は個別指導で剣を振るっていた。 その中で一番多くの面積を占め、一番激しく稽古をしているのがコンラートを中心とするグループだ。 今も軽く10人以上の若者達が、コンラートを囲むように剣を構えている。コンラートの隙を狙っているのだ。 コンラート=カクノシンに稽古をつけてもらいたいと希望する者が多いため、結局集団を相手にすることになってしまった。1人1人では時間が掛かりすぎるからだ。 10人程に一斉に襲い掛からせて、その剣を跳ね返しながら、「腰が高すぎて踏み込みが甘い!」とか「大振りをするな! 全身隙だらけになるぞ!」とか「切っ先がブレている! 腕の力にばかり頼るな!」と、コンラートが厳しい指導の声を飛ばしている。 その内容をよーく聞いていると、目が見えないと主張するにはかなり無理があるかなー? と思わないでもないというか、そこ絶対見えてるでしょ? と言いたくなる部分が多々あるのだが、「カクノシンは剣の達人」ということで皆なぜか納得しているらしい。なので、ユーリもあえて気にしないことにしていた。 「厨房の手伝いをしてくれているそうだな。一休みか?」 「あ、はい。お昼はロルカおばさんが作ってくれるそうなので、それまでお休みです」 厨房のおじちゃん達やおばちゃん達は、ユーリを「放浪の剣士と共に旅する可哀想な孤児。おまけに見た目と違ってまだ成人したて、たった16歳の幼児」と認識しているらしく(平均寿命400〜500歳の魔族にとって、16歳は例え法律上は成人していようが、実際は幼児もいいところの年齢だ)、1日で対応がすっかり幼稚園児向けに変わってしまった。 門人達が食事を終えた皿を厨房に運べば、「皿を落さずに上手に運べたなあ。偉い偉い」と頭を撫でられるし、せっせとテーブルを拭けば、「よしよし、ミツエモンは良い子だ」と飴玉をくれる。ちなみにまん丸のでっかい飴玉は苺ミルク風味で美味しくて、ぷくっと膨らませた口の中でコロコロ転がしていたら、「喉に詰まらせるんじゃないぞ?」とこれまた優しい声が掛かった。 顔馴染みになったロルカおばちゃんからは、昨夜一晩で仕立てたというシャツを貰った。 わくわくとしたおばちゃんの表情からは、ユーリを孫の様に可愛く思っている様子がありありと見て取れる。 ロルカおばちゃんは、息子一家がグランツを出てしまい、今は1人暮らしだ。 「家には部屋もあるし、何だったらミツエモンは私が引き取ろうかねえ」と話しているのを、ユーリも小耳に挟んでいた。 ……いつもの気軽なお忍びと違って、何故か今回は申し訳なさが募ることが多い……。 それはさて置き。 「あの、ちょっとお話を伺いたいことがあるんです。今、良いですか?」 丁寧に問い掛けるユーリに、エイザムが「ほう?」と顔を向けてくる。 「私にか? 何だろうな? ああ、構わんよ、言ってみなさい」 穏やかに言われて、ユーリはそっとエイザムの隣に歩み寄った。 「あの……実はカクさんの幼馴染がスールヴァン道場にいて、明日の大会にも参加するんですけど……」 「ああ、クレアがそんなことを言っていたな。……まさかと思うが、その人物もルッテンベルク師団にいたとか言うのではないだろうな?」 「え、と…はい、あの、スケさんもルッテンベルク師団の生き残りです」 「それは……!」エイザムが驚きに目を瞠る。「そのような人物がスールヴァンにいたのか!? これは……驚いた。いや、それは大先生もお喜びだろう。グランツの武道界にとっても素晴らしいことだ。私もぜひ1度会ってみたいものだな。大会が終わったらカクノシンに……」 「あの!」 思わず声を上げた勢いのまま、ユーリは言った。 「どうしてガスールお爺ちゃんの誤解を解かないんですか!?」 呆気に取られ目を瞠るエイザムに、ユーリは急いで「ごめんなさい」と謝った。途中経過をすっ飛ばして、いきなり結論に飛んでしまった。 だがエイザムは何も答えず、ただ難しい顔でユーリを見つめている。 その視線に痛みすら感じながら、ユーリはすうっと息を吸った。 「あの……おれとカクさん、ここに来る前、スールヴァン道場に行ったんです。そこでお爺ちゃんやルイザさんからシュルツローブ道場の話を聞きました。最初はどんな酷いところだろうと思ってましたけど、でも来てみたら全然違ってた。それで話を聞いて、スールヴァン道場のお爺ちゃん達がエイザム先生のことを誤解してることを知りました。その……先生が、ガスールお爺ちゃんの息子さんを、戦場で、あの……」 「……誰から聞いたね? そのカクノシンの幼馴染とやらからか?」 「い、いいえ! あ、でも、それは……あのー……」 まさかレフタント家のイヴァンを呼び出して、とは言えない。 言葉に詰まるユーリの様子に、「まあ良い」とエイザムが呟く。そしてそのまま、視線を広場の門人達に戻した。 「あの…?」 「別に誤解でもなんでもない」 「……え…?」 エイザムの口から飛び出した一言に、ユーリはぽかんと口を開いた。 「ローディンは私が殺した。大先生やルイザが私を憎むのは当然のことだ。……スールヴァン道場を乗っ取る気などは毛頭ないがね」 ローディンというのがガスール老人の息子、フェルとルイザの父親の名なのだろう。 その名を淡々と口にするエイザムの唇の端が、それでも小さく震えるのをユーリは観た。 「あのでも…! フェルさんはお爺ちゃん達の勘違いだって……」 「フェルの方が勘違いをしている。彼も私を憎むべきなのだ…!」 門人達に厳しい眼差しを向けたまま、強い口調でエイザムが言い切る。岩か木を彫ったようなエイザムの硬い横顔を、ユーリは思わず睨みつけた。 「……どうしてそんな嘘を言うんですか?」 「嘘?」エイザムがユーリに顔を向ける。「私は嘘など言わん」 「嘘です」 きっぱりと言って、ユーリは1度、キュッと唇を噛んだ。 「先生はそんな人じゃないです。それに、仲間を戦場でだまし討ちするような卑怯者が、憎まれることを願ったりするはずありません…!」 エイザムがハッと息を呑み、そのまま顔を巡らせ、ユーリを見下ろした。 瞳が驚きに瞠られている。 「先生は、お爺ちゃんに憎まれたいんですか? どうして?」 長い前髪越しにエイザムの瞳を覗きこみ、ユーリは言った。エイザムの瞳に、様々な感情が過ぎるのが分る。それがどんな感情かは読み取れないが……。 「ミツエモン、お前は一体……」 「ガスールお爺ちゃんは良い人です! 頑固で厳しい人だけれど、でもとっても良い人だと思います。先生はそう思いませんか?」 エイザムの瞳が何かを、懐かしい記憶か、誰かの姿を探すかの様に揺れる。 「……あ、ああ、それは……。大先生は武人としても人としても立派な方だ。武道の師範としては厳しい方だが、本当はお心根の優しい…むしろお人好しといって良いくらい気の良い方でもある。私も本当に……。だが私は……」 「それが分かっていて、どうしてお爺ちゃんに憎まれようとするんですか? 嘘までついて!」 「……嘘などつかん! 私はローディンを、唯一の師匠の息子であり、長年共に修行をしてきた親友の命を奪った。だから大先生が私を憎むのは正しい行為なのだ。別にわざと憎まれようとしているわけではない…!」 「だからそれは…!」 「いい加減にしなさい!!」 しん、と広場が静まった。 突然の大声に驚いた門人達が、剣を構えた姿のまま師匠を凝視している。 「子供が」エイザムが声を低めて言う。「口を出す問題ではない。控えなさい」 それだけ言って、エイザムはくるりと踵を返した。そしてそのまま歩を進めようとする。 「ガスールお爺ちゃんは優しくて良い人です」 エイザムの大きな背中に向かって、ユーリが静かに言った。 「そんな優しい人が、ずっと人を憎んだり、嫌っているのは辛いと思いませんか? 先生を嫌い続けようとするお爺ちゃんのこと、可哀想だって思いませんか!? ずっと何年もそんな思いをさせることこそ、申し訳ないって思いませんか!?」 投げつけられた言葉に、エイザムの足が止まった。 「だって、人を嫌ったり憎んだりするのは、全然楽しいことじゃないです…! 嫌おうってすればするほど、胸がぎしぎし痛くなって、頭がガンガンして、どんどん泥の中に入ってくみたいに気持ち悪くなって……! それを何年もずっと続けるなんて、おれ、想像しただけで息ができなくなるくらい胸が苦しくなります。……お爺ちゃんは意地っ張りだから、精一杯頑張って先生を嫌ってる顔をしてるけど、でも本当は辛くて苦しくて仕方がないと思います。絶対そうだと思います。もうこんな苦しい気持ちから助けて欲しいって、解放して欲しいって、心の中で叫んでるんじゃないでしょうか! 誤解を解いて、本当は何があったのかをちゃんと言って、お爺ちゃん達を楽にしてあげて下さい! 怒りとか、悲しみとか、そういった辛い感情から解放してあげてください! エイザム先生は……」 本当は、ガスールお爺ちゃんが好きなんでしょう? 背を向けたまま立ち尽くすエイザムの肩が揺れた。大きく息を吸っているのが分かる。 振り返って何か言い返されるかとユーリは身構えたが、結局エイザムは振り返らなかった。そしてそのままユーリの前から歩き去った。 ほう、と息を吐き出したユーリの肩に、すっかり感触を覚えた大きな手が乗った。 振り返れば、コンラートがサングラス越しにユーリを見つめている。 「……カクさん、気をつけないと目を開けてるのが分っちゃうよ?」 「あなたの前以外ではちゃんと瞑っています。大丈夫、気をつけていますから」 「って言いながら、すぐ敬語になっちゃうんだからなー」 クスッと笑うと、コンラートも笑みを浮かべ、それからそっとユーリの耳元に顔を寄せてきた。ユーリの胸がトクンと鳴る。 「今さらですが……俺も、あなたに苦しい思いをさせてしまいましたね」 「ホントだよ」 ちょっと唇と尖らせて頷けば、サングラスの奥でコンラートが目を伏せる。 「でもさ」 身体を動かし、今度はユーリがコンラートの耳に顔を寄せた。 「1日はもちろん、1時間だってコンラッドを嫌いでいることなんてできなかったから」 そう囁くと、一瞬コンラートの目が見開かれ、それからゆっくりと閉じられた。 「ありがとう。ユーリ」 どんなに言葉を尽くすより、そんな一言が嬉しい。たははと照れ笑いが浮かぶ。頬が熱い。 ……本当はそれどころじゃないような気もするんだけど、と思った途端。 「どうしてあんなことを…?」 突然降りかかった声に、ユーリとコンラートはパッと身体を離した。離れてから、別段慌てて離れる必要などなかったことに気づいたが……。 広場から、ゆっくり近づいてきたのはガスリーだった。 彼の周囲には、心配げな顔なフィセル達もいる。 「スールヴァン道場の誤解を解いて、仲直りして欲しいんです」 きっぱりそう言うユーリに、ガスリーがため息をつく。 「仲直りも何も、こちらには何のわだかまりもないんだ。俺達が道場を割ったのも、別に大先生や道場に不満があったわけじゃない。大先生のことは、今も最高の師匠として尊敬申し上げている」 「あなたも元はスールヴァンの門人だったのでしたね」 コンラートに問われて、ガスリーが頷いた。 「ああ、そうだ。俺はエイザム師匠こそ大先生の跡を継ぐに相応しい人だと思った。その師匠が争いを嫌って道場を出るというから一緒に出た。それだけだ。その辺りの事情は大先生も理解して下さっている」 「それは了解しています。ですが、問題はそこではないのでしょう?」 「……まあな」 ふうと息をついて、「そこからは師匠の心の問題だ」と呟くように言った。 「戦争中に起きたことに、俺は何も言えん。戦でつけられた傷の深さも痛みも、当人にしか分らんものだから……と、そんなことはカクノシン、お前が誰より分かっていることだったな」 苦笑いするガスリーに、コンラートも苦笑を返す。 「スールヴァンとのことは、俺も心苦しく思っている。だが……意地っ張りと頑固者同士、どうにもこじれてしまってな……。大先生とて、師匠がどういう男かちゃんと分かっているはずなんだが、腹を割って話す切っ掛けを見つけられないまま今日まで来てしまった……」 長すぎたなあ。 しみじみと呻く様にガスリーが言った。 「救いはフェルが理解してくれていることだが……。だが確かにいい加減何とかなってもらいたいのは確かなんだ。フェルもクレアもすっかり良い年頃になったし……。このままではあの2人も先に進めんからなあ」 フェルさんとクレアさん? ユーリがきょとんと首を捻る。 それって、一体……? ユーリのさっぱり分りませんという顔に、ガスリーが吹き出した。 「何だ、分かっているような顔をして、何も知らなかったのか。スールヴァンのフェルとウチのクレアはお互いに将来を約束した間柄、つまり恋仲というヤツだ。あの2人は幼馴染でな。まあ、昔から仲が良かったんだが、自然にというか、当然の成り行きというか、そういう仲になったんだな。これまではまだ若いと言っていられたが、フェルも道場主になったし、クレアも年頃だ。だが大先生やルイザがあんな調子では、あの2人もなかなか結婚に行き着けんだろう」 「そ、そうだったんですか…!?」 ユーリのびっくり声に、ガスリーが声を上げて笑った。 それからふいにユーリの前までやってくると、太い腕を上げ、大きな掌をユーリの頭の上にポンと乗せた。 「大先生を辛い思いから解放してやってくれ、か……」 ああ、そうだな。 言って、ガスリーがユーリの頭をがしがしと掻き混ぜる様に撫でた。 「お前の言う通りだ。人を嫌い続けるのも憎み続けるのもキツいもんだ。どんなに本気で嫌っていても、いずれヘトヘトに疲れてしまう。大先生もとっくに疲れ果ててるはずだ。あの大先生が、人柄を知り抜いてる師匠を嫌い続けていられるはずがないしな。もう充分だ。そうだろう?」 顔を覗きこまれて、ユーリは「はい!」と大きく頷いた。 「お前達が来てくれた事は、文字通り天の配剤だったかもしれんな」 「……?」 「運命ってことだ」 またも首を傾げたユーリに、ガスリーが笑う。 「お前達の存在が、俺達を新しい道に導くことになるかもしれん。……うまく言えんが、そんな気がする」 そう言うと、ガスリーはユーリ達から離れ、エイザムを追い掛けるように去っていった。 「……ようよう、ミツエモン」 ガスリーを見送るユーリに、聞き覚えた声が掛かる。イシルだ。すぐ隣にはバッサとフィセルもいる。 緊張の残る表情のイシルが、ユーリに向かって感心したように言った。 「お前ぇ、師匠に怒鳴りつけられて、よく平気な顔ができたなあ。師匠は滅多にあんな声は上げねぇが、たまにやられるとどんな肝の太い野郎でも震え上がっちまうもんなんだぜ?」 大したもんだと褒めてくれるイシルに、ユーリは肩を竦めた。 「もっと迫力のある怒鳴り声に鍛えられてるからね。おれの知ってるのに比べたら、あんなの軽い軽い」 すげーなー。師匠より怖ぇのがいんのかよ。 驚きの顔を見合わせるイシル達を横目に、ユーリとコンラートは笑みを交し合った。 遥か血盟城では、今頃宰相閣下がくしゃみ連発だろう。 →NEXT プラウザよりお戻り下さい。
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