精霊の日・10

「ありがとう」

 子供の声がする。
 あれは、いつの事だっただろうか……?

 常に高圧的だった大シマロン。挑発に乗ってはならないと、必死で我慢を重ねてきた祖母、そして父。
 忌わしい魔族を倒し、人間による、国同士の争いのない平和な世界を造るという美名の元に、大シマロンが始めた「世界統一戦争」。
 様々な国々が倒れていった。そしてついに。
 大シマロンとの国境線がどんどん近づいてくる。次は自分達だ。その恐怖と怒りに、民と、そして国境を護る軍は耐える事ができなかった。やがて起こった衝突。
 後はあっという間だった。
 父と兄が戦いの中で命を落とした。首は落とされ、槍の穂先きに飾られて、戦場に並べられたという。その周りで、大シマロンの兵士達は勝利の宴を催したのだ。……戦争の常とはいえ、他国の王族、そして死者に対する敬意も何もない。だが、そのことに泣き、憤る時間すら、遺された者に与えられる事はなかった。

 女王としての責任をとるため、あえて宮廷に残った祖母と側近の者達。だが、私とアリー、そしてレイルは、王家の血を護るため、すぐに国を後にした。残ると言い張る事も、別れを惜しむ事もできなかった。事態はあまりにも切迫していて、感情に振り回されている余裕はなかったからだ。
 私たちには、王家の生き残りとしての役目がある。

 逃げた。逃げた。ひたすら逃げた。
 祖母が捕らえられた事も、側近達が皆殺しにされた事も、逃亡の中で知った。
 そしてある日、やがて国境に近づくという日。
 戦場となり、灰燼に帰した無惨な姿の村で、私はその子供達に会った。

 焼け落ちた建物の陰に、その子供達はいた。年長の者は10歳くらいだろうか。そして、その弟達か妹達か、痩せこけ真っ黒に汚れ、ぼろを纏えればまだいい方、ほとんどが裸の5、6人の子供達が身を寄せあって生きていた。……残骸となった村に、他に生きている者の姿はなかった。
「……お前達だけなのか? 大人は、どうした?」
「…死んじゃった……。お父ちゃんも、あんちゃんも……大シマロンに、殺された……。お母ちゃんとお姉ちゃんは、兵隊達が引きずってった……」
 ずっと待ってるけど、帰ってこない。
 そう教えられて、私たちにどうできただろう。戦争さえなければ、この村も豊かな緑の中で、たくさんの実りに恵まれて、皆、飢えも痛みも知らずに生きていられただろうに。
 せめてと食料を渡した。パンや、干した果物や肉を。
 それを一番年長の子供が、全て等分して幼い子供に分け与えた。自分は何も取ろうとせずに。足りなかったかと、さらに渡せば、またも全て分けてしまう。よく見れば、その子が一番痩せていた。
「お前も食べなさい。どうして全部分けてしまうの?」
「だって……」
 はにかんだ様に、少年が言った。自分は身体が大きいから、一番たくさん食べてしまう。そしたら、他の小さい子達の食べる分が減ってしまう。自分はお兄さんなんだから、この子達を護ってやらなきゃならない。だから、皆の食べる量を減らさないために、自分は食べないのだと。
 全然理屈になってない。
 なのに涙が溢れて止まらなくなった。
「お父ちゃんが、弟達を護れって言ったんだ。俺、お父ちゃんの代わりに皆を護るんだ!」
 誇らしげにそう言う。だから、新しいパンに干し肉をつけて、その子の手に握らせた。
「これはお前が食べなさい。お前が倒れたら、一体誰がこの子達を護るんだ? お前は絶対に死んではいけない。食べて、力をつけて、そして弟達を護ってやりなさい」
 びっくりした様に目を瞠って、それからその子は大きく頷いた。そして、ものすごい勢いでパンにかぶりついた。

「ありがとう」
 子供達が、笑ってそう言った。握った手は果物や何かの汁、そして泥に塗れてべたべただったけれど、確かに生きている温もりがあった。
「ありがとう」
 もしかすると、いや、きっと、自分達のした事は、彼らの死期をほんのわずか延ばしただけなのだろう。むしろ辛い日々を増やしただけに終わるのかもしれない。それでも、それでも。
「生きろ」
 いつかきっと、きっと必ず……!
「ありがとう」
「ありがとう」
 お前達の笑顔に誓うから。


 ………忘れていた。

 握り合う手の温もり。祈りと期待と、そして別れ。
「頼むぞ、カーラ」
 出陣を前に、手を握り、抱き合った父と兄。
「陛下…お祖母様と、アリ−達を……頼むぞ」
 生きて帰れないのは覚悟の上。父は本当なら兄も残していきたかっただろう。だが、民が戦っている時に、唯一の王子が逃げられる訳がない。兄も瞳に覚悟の光を宿していた。
「何があろうと生き延びてくれ。その希望さえあれば我々は……!」
 生きろ。
 生きて生きて、そしていつかきっと……。


 受け止めたものが、あんなにたくさんあったのに。決して忘れまいと、たとえそれが癒えない傷であり、身を裂くような痛みであろうと、あの日々で受け止めた思いを、願いを、祈りを、そして決意を、決して忘れないと心に決めていたはずだったのに。

 いつしか、生きる理由が、戦う理由が、変わってしまった。一気に。大きく。

「初めまして。コンラート・ウェラーです。お祖母様をお連れ致しました」

 にこりともせずにそう言う、あの男が目の前に現れた、あの瞬間に。


「……バカだ、私は。本当に……救いようがない……」
 真っ暗な場所で、カーラは蹲って泣いていた。

「どうしてバカなの?」
「………………あの人に認めて欲しいと…。私こそが、誰より彼にふさわしいと、そう、認めて欲しいと。……いつの間にか、そのためだけに剣を持つ様になってしまった……」
 これは夢だ。カーラは思った。夢なら、奇妙な場所にいることも、誰かにいきなり本音をぶつけることも、きっと構わないのだろう。
「でも、大シマロンと立派に戦ってきたじゃない? 女の人だって事を理由に護られたりしないでさ。皆の先頭にたって、危険な戦場にも行ったんでしょう?」
「…ああ、そうだな。でも、たぶん……いつも頭の中にあったんだと思う。女将軍だの、未来の女王だのと言われながら、私が本当に求めていたのは、彼の片翼となることだった。常に彼の傍らにあって、どんな戦いでも互いに命を預け合い、互いの背を護り、左右を護る……そんな彼の分身に、そして……伴侶に……」
 そうなりたいと、いつも頭の中で。
「それは、いけない事なのかな……。その……実現するかどうかは別にして」
 何者でもない声が、妙な戸惑いに揺れる。それが何となくおかしくて、カーラは微笑んだ。
「あんな戦いで命を落とした全ての民のために。そして生き延びたにも関わらず、悲惨な生活を余儀なくされている全ての民のために。死を覚悟して戦場に赴いた父と兄のために。この命を捧げようとあれほど強く決意したはずなのに……恋をしたら、簡単にそれを忘れてしまった。彼の伴侶になるために、彼に認められるためだけに誰より強くなろうとする、そんな女に……堕落してしまったんだ……」
「そっ、それって、堕落なの……っ?」
「堕落……と言わないのかもしれないな、普通なら。……でも、私にしてみれば、堕落以外の何ものでもない。……このままでは、恥ずかしくて死んでいった父や兄や、そして民達にも顔向けができない」
「………カーラさんって、すっごく真面目なんだねー」
「そうか? ……融通がきかない頑固者なんだろうな。そのくせ小心だし、意地が悪い」
「……うーん」
 隣に座った何ものかは、腕を組んで頭を捻っている。そんな気配がした。
 そのまま、何となく闇を見ていたカーラの隣で、「そうだ!」と声がした。
「あのさー、カーラさん、こんな風に考えられない?」
「何がだ?」
「そもそもカーラさんは、ちゃんと逃げたりしないで戦ってきたんだし、勝利に貢献したんだし、皆にとってもなくてはならない人になったわけだから、強くなる理由とか戦う理由がどうだろうと、それはそれで結果オーライなんだよ!」
「……けっかおー……?」
「終りよければ全てよし!」
「………それはちょっと違うんじゃないか……?」
「いーのいーの。んでね、カーラさんの中で戦う理由が変わっちゃったのも、カーラさんが堕落したからじゃないんだよ。カーラさんが悪いんじゃないの! 悪いのは……」
「……悪いのは?」
 闇の中の気配に問う。

「カーラさんが好きになった人が、かっこ良過ぎるのが悪い!!」

 ぷっと、吹き出した。
「だってさー。背は高いだろ? 顔はめっちゃくちゃいいだろ? 何より目がさあ、綺麗だよねー」
「ああ、そうだな」
 カーラも視線を暗い虚空に上げて、それを頭に思い浮かべた。
「うん。私も彼の瞳が一番好きだな。……あの銀色の虹彩が、何かとっても神秘的で……本当に美しいと思う。……あの瞳に見つめられたいと、女なら誰でも思うだろうな」
「……女じゃなくても思うけどね……」
 どこか拗ねたような声に、くすくすと笑いがこぼれる。
「そうだな。彼は男に惚れられる男だしな。彼に惚れ込んで、一生ついていくと決めた男が何人もいる。……考えると、本当に妬けるほどだな」
 そういう意味じゃないんだけど…、と、声が呟く。
「…えーと、まあ…。それにさ、頼りがいあるし、優しいし、笑顔が爽やかで……」
 え? と、カーラは目を瞬いた。
「あまり……優しいと思った事は……ない、な。そつがないというか、身分の分け隔てなく礼儀正しいとは思うが……。それに、爽やかな笑顔というのも……見た覚えがない」
「…え? へ? そ、そうなの……?」
「ああ。…いつも、胸に何かを秘めた様に厳しい眼差しをしていて、笑顔も……ほんの小さく、唇の端を上げるくらい……。そうだな、めったに声を荒げる事もなく、穏やかで、誰に対しても丁寧で。だが……だからこそ、いつも一線を引かれているような……これ以上自分に踏み込むなと言われているような、そんな気がしていた……」
「……そうなんだ……」
「だから本当に驚いた」
「え?」
「彼らが……彼の家族が現れた時……。あの子、ユーリを見る彼の目が。あんな……優しい目は初めて見た。優しくて、幸せそうで、あの子が愛しくてならないと、まるで蕩けそうな目だった……」
「……えーと……」
「………バカだな、私は。それで嫉妬して、そのくせ嫉妬してる自分を認めたくなくて、ますます周りが見えなくなって……。本当に、大馬鹿だ……」
「…えと。そのー……。……………………ごめんなさい……」
「何を謝る?」
「えっと、お…。あー……うー……」
 何やら気配が、頭を抱えて唸っている、ように思えた。伝わってくるその気配が、ひどく可愛らしい。これではまるで苛めているみたいだ。
「……もしかして、私を力付けようとしてくれていたのか?」
「………はいぃ。そうなんですけどー。……えっとー」
 何とも情けなさそうな気配に、くすくすと、何故か笑いが込み上げてくる。カーラは大きく息を吸った。
「………悪いのは、私じゃないんだな」
「…え?」
「私が堕落した訳じゃない。私は全く悪くない。悪いのはあいつだ。あいつが、あまりにも魅力的で、素敵で、いい男で……かっこ良過ぎるのが悪い!」
 きょとんと、気配が自分を見上げている。カーラは笑ってその気配に顔を向けた。
「そうなんだろう? 違うのか?」
「ち…」気配が勢いよく首を振る。「違わない! カーラさんは立派にやってる! 全然悪くない! 悪いのは、かっこ良過ぎるコンラッドだ!!」
 ……何故だろう。この気配を知っているような気がする……。

「………そろそろ、行こうよ、カーラさん」
「……行く…?」
「戦う理由がなんだろうと、カーラさんはちゃんと戦ってきた訳だし、民のためにがんばってきたんだよね? それって、まだ全然終わってないでしょう? っていうか、全部これからだよね?」
「……ああ、そうだな。戦いは大シマロンを終わらせるためのものだ。この世界や民のためにすべきことは、全てこれから始まるんだ」
「じゃあ始めなきゃ。……お父さんやお兄さんや、それから出会ったたくさんの人達のためにも、カーラさん、これからますますがんばらなきゃ。……やるって決めたんでしょう?」
 そうだ。カーラは心に頷いた。
 私は決めたのだ。やり抜くと決めたのだ。
「……あのさ、カーラさん」
「………?」
「……人を好きになって、その人のためにがんばろうって思うの、すっごく素敵なことだと思うよ」
「………………」
「誰かのために強くなれるって、かっこいいと思う」
「………みっともなくないか……?」
 気配がぶんぶんと首を振った、ように思える。
「かっこいいよ。それにそのー……すごくキレイだし」
 そこんトコは、ちょっと困るンだけど、俺……。意味不明の呟きが聞こえる。
「だからさ。そんな自分を堕落だなんて言わないで。バカだなんて、言わないでよ。……カーラさんが強くなってがんばった分、戦いは早く終わって、民が幸せになるのも早まったんだって……思わない?」
「それは………とんでもなく前向きな考え方だな」
「でもさ、悪くないでしょ?」
 にこっと、気配が明るく笑ったようだ。
「そんな風に、思ってもいいのかな? 父達は……こんな私を、許してくれるだろうか……?」
「自慢だって思ってくれてるよ!」
 不思議だ。この声を聞いていると、それでいいのだと思えてくる。
「いいのか…」
「いいんだよ。…んでさ、これから民のためにがんばっていけば。挫けたり、逃げ出したり、できないもんな。それが………俺達の、役目だもん……」
 最後に小さく呟くと、その気配が立ち上がった。
「行こうよ、カーラさん。皆、待ってるよ。カーラさんがまた歩き始めるの、皆が待ってるんだよ。さあ!」
 手が、伸ばされる。カーラは、どこからか光が射してきたその空間で、その手を取った。
「……そうだな、坐り込んでいる暇はない」
 壊れた大切な世界を、蘇らせるために。
 立ち上がる。

 ふわりと。
 今までいた世界が、いきなり柔らかな光に満たされた。

「ああ、よかった…! まだ光が残ってる!」

 不思議な言葉を、嬉しそうにその気配が言う。
「希望があれば、大切なものを創っていこうって意志が通じれば、絶対に大丈夫なんだ。……ほらっ、カーラさん!」
 眩しくて目を閉じていたカーラが、その声に顔をあげる。
 そしてその光の向こうに。
「……父、うえ……? 兄上……。あ……みんな……」
 父がいた。兄がいた。そして戦いの中で散っていった懐かしいたくさんの人が、そこにいた。そして優しい眼差しで、労る様に自分を見つめている。
 カーラが気づいた事が分かったのか、父達が嬉しそうに笑った。そして手を振る。
 がんばれと。済まんなと。頼むぞと。そして、愛しているぞ、と。
 ここにこうして自分が坐り込んでいる間も、皆は自分をずっと見守ってくれていたのか。
「……父上、兄上、皆。……私は負けません。迷う事はあっても、きっと必ず、なすべき事をなしとげてご覧にいれます……」
 もう忘れていた王女としての礼をとり、カーラは穏やかに笑みを、今は光の中にいる人々に投げかけた。そして。
「さあ、行こう!」
 側にいてくれた気配を振り返る。
「……え……?」
 光の中に、微笑むその人がいた。
「………ユー……」

 光がカーラを包んだ。




 人々は、ただただ呆然とその光景を見つめていた。
 ユーリが横たえられたカーラの傍らに跪き、その手を取り、そして祈るように目を閉じた、その数瞬後。
 二人を淡い光が包んだのだ。
 折しも、曙の光が東の空を照らしはじめる頃。やがて降り注ぐ朝日を集めたかのように、透明で清浄で、虹の様な色合いに煌めく光だ。魔力と呼ぶには、あまりにもそれは神秘的な輝きに満ちている。
 この光だけで。人々は思った。この光だけで、魔族が魔物などではないと信じられる。それほどまでに、この光は清らかに澄み、何よりも美しかった。
 カーラとユーリ。そして彼らを護る様に囲むコンラート達魔族。それからエレノアとダード、クォードら砦の兵士たち。
 今、全員が地面に跪き、身を乗り出す様に彼らを、ユーリとカーラを包む光を見つめていた。
 そして。どれだけの時間が経ったのか。
 息を詰めて見つめている人々の前で、ユーリがそろそろと手を離し、そして急激に力が抜けたかの様に、ぽてん、と尻餅をついた。
 気がつけば神秘の光が消え、まるでそれが散ったかの様に、周囲は朝の陽の光に満ちている。
「ユーリ!」
 コンラートが背後からユーリを抱き締める。
「大丈夫ですかっ!?」
「ユーリッ!」
 魔族達がユーリを取り囲む。はあっ、と大きく息をついて、ユーリが頷いた。
「だいじょーぶ……たぶん……。カーラさん、みてあげて。もう、大丈夫だと思うけど……」
 まだぼんやりとしている人々の中で、最初に動いたのはクォードとダード師だった。厳しい顔でカーラに近づくと、首筋や胸に手をあて、傷を確かめる。しばらくして、二人が顔を見合わせた。
「………信じられん……。傷が塞がって、いや、それどころかほとんど傷跡が消えている……」
「呼吸も鼓動もしっかりしておる。もう……大丈夫であろう……。しかし……何という……」
 ダード師が畏怖の念に囚われたかのような表情で、コンラートに抱き込まれたままのユーリに視線を移す。
 そしてその表情は、少しづつその場にいる人々の間に、伝染する様に広がっていった。
「……ここにね」
 ユーリがふいに、くぼ地の真ん中、カーラが横たわる辺りを指差した。
「この地に残った最後の精霊が、集まっているんだよ」
「……え!?」
 全員の視線が一斉にその場に集中する。
「ここは、たぶん池か小さな湖だったのかな…。そしてね、とっても神聖な場所だったんだと思う。精霊の、大地のエネルギー……活力に満ちた場所、だね。水は枯れてしまって、祀られる事もなくなって、力はどんどん衰えていったんだろうけど、それでもまだ奥深くで、精霊が息づいていたんだ。それが……ずっと助けを求めてた……」
「この……場所に……」
 ダード師が、感に堪えたような息をつくと、そっと地面に手をあてた。
「その声が聞こえていたんだけど……ここは人間の土地だし、俺にはどうしていいか分からなくて……。俺の力は波があるから、出したい時に出せるとは限らないし。ただね……見えたんだ。カーラさんの…手に、触れた時。カーラ…さんの、魂と精、霊の……魂が、この…神聖な土地を、媒介にして……繋がってる……って。カーラさ、ん……せいれいの……はめつの………夢のな、かに……つかま………だか、ら……おれ……」
「ユーリ!? ユーリ、どうしましたっ!?」
 コンラートの腕の中で、ユーリが苦しげに己の胸を掻きむしり始めた。
「ユ、ユーリッ!!」
「ユーリ、しっかりしろっ!」
「坊っちゃんっ!?」
 魔族達が切羽詰まった形相で、ユーリに声をかけている。だがユーリはますます苦しげに身悶えるだけだ。そして逃れる様にコンラートから離れると、地面に倒れ込んだ。
「ユーリッ!!」
 ぐふ、と、詰まっていたものを吐き出すような息をすると、どうする事もできずに見つめているだけの人々の中で、ユーリは地面に両手をついた。その腕が、がくがくと痙攣の様に震えている。そして、汗の玉を顔中に浮かべ、辛そうな呼吸に眉を顰めたまま、エレノアに視線を向けた。
「……ごめん、なさ、い……えれの、あ、さ……ちから……ぼうそうし…て、ごめ………さ……」
 ユーリが手をつく辺りの地面が、先ほどのような、それよりももっと強い光に包まれ始める。
 声を掛けられたエレノアは、目を瞠いたまま、呆然とユーリを見つめている。
「ほん、とは……も、と、ゆっく、り……こんなつも……じゃ……ああ……もう……!」
 光が、急激に強まっていく。
「ユーリッ!」
 突如、轟、と巻き起こった風がユーリと人々の間に壁を作る。
「……ごめん……なさ……」

 光が。
 爆発した。


 世界が、黄金の光に、包まれた。



  プラウザよりお戻り下さい


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えと。………続いて、しまった………。えへ。
もしかして、最長、かな…?

ちょっと短いですが、ちょうど切りがいいので、今回はここで。

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