「大賢者」。 そのような役職があるとは知らなかった。そもそも眞魔国に宗教があることも、その最高指導者が魔王とは別に存在していることも。 物語や伝説は、「正義」や「神」に敵対する、絶対無比の存在としての魔王について延々語り継いできた。絶対者である魔王がいる限り、その権力を分かつ者の存在など元よりあり得ない。 だが……。 魔王と同等の権力を有する人物が魔族にいる。 その人物について話を聞いたのは、あれは眞魔国と正式な条約を結ぶ直前のことだったか。 エレノア始め新連邦の主だった人々にとって、それは衝撃的な事実だった。 佞臣、奸臣、というものではない…のでしょう。おそらく。この上なく有能な人物であると、血盟城では誰もが畏敬の念を籠めて断言しておりましたし…。性格はユーリと真逆です。正直申しまして、あのユーリと、到底友情や信頼を分かち合える人物とは、私には今も思えません。しかし……ユーリの信頼は事の外篤く、あの宰相閣下や王佐閣下までもが抵抗することなく頭を垂れる実力者であり、権力者です。そして……自分の権力を充分自覚していて、それを奮うことに全く躊躇がないようにも感じました。ユーリも、それからコンラートも、皆がなぜかそれを全面的に認めているのです。私にはその理由も、そして大賢者の人柄も、到底理解することはできませんが、とにかく、油断のできない人物だと思います。 ……私はキライ、あの人……。冷たくて、性格悪そうで、っていうか悪いし。それに……目が合うと……とっても怖い…。あの人の目を見たら、何だか……自分がものすごく小さな、つまらない……生きていても何の価値もない人間だって気がするの。どうしてユーリがあんな人を親友だって大切にしてるのか分らない……。 見た目はあの幼い魔王陛下と同じ少年だという。それどころか双黒であることも。 孫娘2人は、できればかの人物とは2度と関りたくないという顔をしていた。 孫達と共にその人物と面識を得た官僚達は口が重かった。 かのお方と話した内容については報告書をご覧下さい。ただ、まともに相対したのは1度だけですし、話は一方的で、腹を割った話などは全く出来ておりません。ですからその人となりについて申し上げることはあえて致しません。ただ……怖いお方です。魔王陛下を傀儡にして、己が権力を強めようとしているのではという見方もありますが、そこは何とも……。魔王陛下のご性格を考えれば、本来対極にあるであろうと思われるお方ですが、魔王陛下はもちろん、権力を争うはずの宰相閣下とも隔意があるようには見えませんでした。おそらく我々などには理解できない関係があるのかと推察いたします。とにかく言えることは、決して不用意に心を許せる方ではない、かと……。 不思議だったのは、その「大賢者」なる人物に対して、孫娘とは全く違う評価を下している者達がいたことだ。長年の友人達ともう1人の孫。特にその、もう1人の孫は……。 立派な方です。確かに厳しい方ですが、理不尽なことは何一つとして仰っておられません。無駄な情に流されることなく、道理や筋を通しておられるから、人によっては冷たく感じられるのかもしれません。ですが、それに反発するとしたら、そちらの方が間違っているのだと思います。あの方のような立派な側近をお持ちであるからこそ、魔王陛下の政は見事に華を咲かせるのであろうと、僕は思います。僕は為政者として人の上に立つのであれば、あの方にこそ学びたいと思います。 どうも鮮明な人物像が描けない。全体的に不穏当な雰囲気も感じる。 報告を受けて、エレノアがそれでも脳裏で結んだ人物像は。 魔王ユーリと見た目は同年代の少年であること。双黒であること。 慈悲の光に満ちた魔王陛下とは正反対の、冷徹な理論家で、油断のならない人物であること。にも関らずユーリの寵愛を得ていて、「親友」とまで呼ばれていること。 魔王と並ぶ権力を有している可能性があること。そして…。 容易に友情を育むことの難しい人物であること、だ。 しかし。 これは一体どうしたことだろう。 エレノアの目の前に立った双黒の少年。 コンラートの紹介で、かの「大賢者猊下」であると紹介されたその少年は、かつて報告され、エレノアが想像していた人物とはあまりにも掛け離れていた。 本当に……まったくの少年、だ……。 「……お伺いしてもよろしいかな?」 ナウダン王国の代表者(彼が四州の後ろ盾となった4カ国の主導的立場にある)が、戸惑いと不快の複雑に入り混じった表情で少年に問い掛けた。 「大賢者ムラタ・ケン」と紹介された少年は、エレノア達に愛想良く挨拶した後、そのまま大会議場に入り、今、供されたお菓子を美味しそうに頬張りながら、興味津々といった風情で議場を見回している。 その様子は、純粋に子供らしい興味と関心に溢れている。少なくともエレノアにはそう見える。 「……え? あ、はい!」 お菓子を皿に戻し、大慌てで少年が居住まいを正す。 子供らしい無邪気な笑顔とその仕種。ナウダン始め4カ国の代表は戸惑いを深めたのだろう、空咳などで間を埋めている。 エレノアはそっと少年の背後に佇むコンラートに目を向けた。 エレノア達は、少年の隣の席に当然のこととしてコンラートの席を用意しようとした。だが、それはあっさりとコンラートに拒絶された。護衛が席についてどうする、と。 そして困惑するエレノア達新連邦の面々にはそれきり関心を失ったかのように、グリエ・ヨザックと共に少年の左右を固めている。少年の両隣の席には、結局書類を抱えた文官らしい者達がついた。 それからエレノアは、傍聴席ともいうべき場所についた孫達に視線を向けた。 カーラやアリーは「大賢者」が現れた瞬間、顔を盛大に引き攣らせ、呆然と立ち尽くしてしまった。そのまま会議場に入ってしまったため、孫達はもちろん、「大賢者」を知っているクォードやクロゥ達とも話をすることができなかった。 確かめておきたかった。この少年が、本当に彼らが会った「大賢者」なのか、と。 もしかしたら……。エレノアは内心で首を捻った。彼は違うのではないだろうか? この少年は、「大賢者」を名乗っているだけで、本当は孫達が会った人物とは別人なのではないだろうか…? こんな子供を前に立てて、そう、ひょっとしたら、コンラートが影で全ての采配を振るうのかもしれない。 どうしてそんな事をする必要があるのか、それは今は分らないが……。 「大賢者……と呼ばれておられるそうだが……」 「あ、それですか?」 照れくさいなー。少年が心底照れくさそうに頭を掻いた。 「僕、これでも一応聖職者なんです。で、イロイロ都合があって、聖職者の最高位に就いていまして、大賢者っていうのは、その地位の呼称なんです。でも、ご覧の通り、僕なんて別に実力があるわけでもなんでもないんですよ。地位にも実体があるわけじゃないんです。だからあんまりその点は深くつつかないで下さい」 お願いします! 少年、ムラタ・ケン、猊下、が、一生懸命を形に表すように勢い良く頭を下げた。 「それは……」コホン、と1つ咳払いをして、ナウダン代表が言葉を続けた。「お血筋、であるのかな? 代々聖職者の要にお就きである、とか…?」 「そんなものです。でも、僕みたいな二十歳にもならない子供でもできる名誉職で、実体は大したことはないんです」 ムラタ・ケンが照れ笑いをしながら、胸元でハタハタと手を振る。だが、エレノアはもちろん、人々は少年のそのような行為ではなく、発した一言に一気に注意を引かれて目を瞠った。 「二十歳にもならない!?」 何人もの声が重なった。それに驚いたようにムラタ・ケン猊下が動きを止める。 「……あ、あの…?」 「今……」 「二十歳にもならない子供、と仰いましたか?」 ナウダンの代表を押し退けて、思わずその疑問を発したのはエレノア当人だった。 「え…?」 「あなた様は魔族でいらっしゃいましょう?」構わずエレノアは続けた。「お見かけは確かにお子でいらっしゃいますが、実際は……」 「僕、混血なんです、エレノア様」 「………混血…?」 はい! 元気な返事をして、少年は斜め後に控えるコンラートを見上げた。 「ここにおいでのウェラー卿や、それから、怖れながら偉大なる魔王陛下と同じく、僕も人間との混血なんです。僕、魔王陛下と同じところで生まれて育って、陛下と机を並べて勉強した仲なんです。僕は陛下と同い年なんですよ!」 それこそ自慢だと言いたげに、少年が胸を張った。 「僕は見かけの通りの年、まだ10代です。聖職者の最高位に座るには、だから本当は、まだまだ分不相応の子供なんです」 最後だけはわずかに哀しげに、瞳を伏せて少年が言った。 明言された言葉に、会議場がシンと静まる。 ……まだ…10代の、見かけ通りの、子供……? 当惑のままに、エレノアの視線が泳ぐ。その視界に、見合わせた顔を複雑に歪ませる四州の執政官や、立会人である4ヶ国の代表の顔が映る。 「……改めてお伺いするが……」 感情を殊更抑えるように、ナウダンの代表が口を開いた。 「地位こそ高かれども、今だ10代という貴公が、何ゆえこのような会議に国家の代表となられたのだ……?」 「あ、それは僕が魔王陛下のお願いしたからです」 まるで夢が叶ったとでも言いたげに、少年が笑顔を輝かせて答えた。 「貴公が、願った、と…?」 相手の声に険悪なものが混じりだしたことにも気づかないのか、少年が笑顔のままに頷いた。 「はい! 僕、単に名誉職に座るだけじゃなくて、もっとちゃんとお仕事がしたかったんです。祖国や、偉大なる魔王陛下のお役に立つお仕事を、ぜひともって。今回、こちらで会議があるって聞いて、僕、すぐに陛下にお願いしました。僕を代表に任命して下さいって。陛下が僕のお願いを聞いて下さって、本当に嬉しく思ってます」 僕、頑張ります! 元気になされた宣言に、だがエレノアは思わず額を手で覆ってしまった。身体が沈みこみそうに重くなる。 最高評議会議員、四州を除く全州から集まった執政官と代表議員達、新連邦の未来を決する重大会議の成り行きをその目で確かめようと傍聴席に集まってきた中央政庁の人々の間に、あってはならない不穏なざわめきが溢れ始める。 「………エレノア殿」 ナウダン代表が低く抑えた声でエレノアを呼んだ。ハッと視線を向ければ、見知った男が厳しい眼差しでエレノアを見ている。 「……どうやら……眞魔国は貴女方が期待なされているほどこの会議を…いいや、新連邦という国を、重要視してはいないようですな…?」 声に嘲笑が含まれているような気がする。 この男はおそらく、この状況を自分達に有利に使えると、すでに考え始めただろう。眞魔国は新連邦中央の力にはならない。こんな子供相手ならば、自分達が充分この場を仕切ることができる、と。 エレノアは唇を噛んでから、息を整え、改めて少年に、それから背後のコンラートに顔を向けた。 もし自分が願う通り、コンラートこそが眞魔国の真の使者であるならば、それを自分に知らせてほしい。 かすかな合図で良い。安心させて欲しい。 大会議場に満ちる険悪な雰囲気を全く感じていないのか、少年はそれこそ夢と希望に満ちた、いかにも楽しそうな笑顔でそこにいる。 眞魔国が、あの魔王が、新連邦を切り捨てるはずがない……。 己の惑乱を振り切るようにエレノアは深く息を吸って、背筋を伸ばした。 ……茶番……いや、猿芝居だ……。 エレノアと同じ最高評議会議員の席にあって、クォードは苦々しい思いを噛み締めていた。 左右顔を見合わせ、分らぬ分らぬと無意味な言葉を交しながら、それでもどこからか魔族の真意が見えてこないかとオロオロする同僚達を尻目に、クォードは腕を組んで微動だにしない。 その視線の先には大賢者とコンラートがいる。 ……本当なら。 つまらん芝居をするなと怒鳴りたい。どういうつもりだと、ムラタ猊下の胸倉を掴んで問い質したい。 だが。 この会議室に入る直前、クォードやカーラ達、大賢者を知る者は、コンラートとその使いから厳しく言い含められてしまったのだ。 曰く。 「余計な口を挟むな。すべて猊下にお任せしろ」と。 視線を傍聴席に向ければ、顔を引き攣らせ、必死に耐えているカーラ達の姿が見える。いや、耐えているのはカーラとアリーと、それからあの時共に眞魔国に出向いた官僚達で、レイルやクロゥ、バスケスなどは平然とした様子で芝居の進行を眺めている。レイルなどは面白がってでもいるのか、その顔には笑みすら浮かんでいる。 思わず舌打ちしそうになって、クォードは慌てて視線を彼らから外した。 ……まったく…何が子供だ。何が実体のない名誉職だ。それに、あの美しくもお優しい姫と、よくも机を並べて学んだ仲だなどと……! ムラタ猊下が魔王陛下と同い年だという主張を、クォードは全く信じていなかった。 大賢者の主張を信じていないという点では、カーラも同じだった。 ……どういうつもりだ、あの男は……! お祖母様をバカにしているのか。新連邦をバカにしているのか。遊んでいるのか。 そんなことがあるはずないと、理屈では分っているのに、頭に溢れるのは罵詈雑言ばかりだ。 「……カーラ」 そっと囁かれて顔を巡らせば、後ろに座っていたエストレリータが眉を顰めて身を乗り出している。 「何なんだい、ありゃ? もしかして、後に立ってるコンラートが実は全部仕切ってくれるのかい? だったら良いけど……。一体あんなただのガキを派遣するなんて、魔王さんは何を考えてるのさ? コンラートは何か言ってなかったのかい?」 あの男は、見かけこそ子供だが、ただのガキなんかじゃない。 だがそれを口に出すわけにもいかず、カーラは無言で身体を元に戻した。 「コ、コンラート、殿……!」 最高評議会議員の中で、最年長の人物が腰を浮かせ、腕をコンラートに、その声同様縋るように伸ばして言った。 「その……使者殿の隣に座って下さらんか……? どうか、会議に使者の1人として参加して頂きたい。お願い申す……!」 周囲からも傍聴席からも同調する声が漏れてくる。 だがコンラートは、自分を見つめる人々をざっと眺め渡すと、非情なまでにあっさりと首を左右に振った。 「いいえ」流れるのはあくまでも冷静に落ち着いた声。「何度でも申し上げますが、俺は単なる護衛です。俺はこの会議において、何か発言する立場にありません。我が国の代表としてこの会議に出席されるのは、猊下ただお1人のみです」 「しかし……我らが今こうして曲がりなりにも独立国を名乗っていられるのは、コンラート殿、あなたの存在があったからこそ……!」 「それはコンラート・ウェラーと名乗った男ですね。主を裏切り、国を出奔し、己のもう1つの血筋を汚した偽王の王朝をを討とうとした」 「だからそれは……」 「俺は、ウェラー卿コンラートです。眞魔国の臣民、魔王陛下に唯一無二の忠誠を捧げる者。混血ではあるが、魔族として、魔族の誇りを持って生きています。あなた方が知っていた男ではもうありませんよ。と言うか……」 コンラート・ウェラーという男など、元々存在していないのですから。 会議場がシンと静まった。 エレノアの中に、治まりかけていた惑乱が再び、寒気と共に蘇ってくる。 ……なぜ、コンラート。なぜ今、私達との絆をあえて断とうとするの……。 「……あのー」 双黒の少年が、おずおずと手を上げている。 「僕、もしかして、頼りないって思われてるんでしょうか……?」 そうだとは言えず、新連邦の人々は視線を逸らした。 「大丈夫です!」 魔族の最高位の聖職者である少年が、力いっぱい宣言した。 「僕、こういう会議にでるのは初めてですけど」 思わず瞑目するエレノア。 「でも、皆さんのお役に立てるよう、一生懸命頑張りますっ!」 少年聖職者が両の拳を握り締め、見るからに一生懸命、健気に決意を表明した。 その健気さ故に、集まった新連邦中央の人々は一斉に視線をあらぬ方向へと飛ばした。 この緊張する会議で、ここまで脱力する事になるとは思わなかった。 エレノアは、ほとんど開き直りの境地で考えた。……まだ会議は始まってもいないというのに。 この少年は、本当に一体何者なのだ……? 少なくとも、聞いていた「大賢者」などではない。 エレノアの視線が同じ席に座るクォードに移る。 長年の同志は、唇を真一文字に引き締めて、何も見るまいとするかのように目を瞑っている。 次に傍聴席の孫達を。 良く見えない。特に何か反応しているようにも見えない。 誰でも良い。何か私に示してほしい。何でも良い、何か、この訳の分らない状況の答えを。 「まあ……頑張って頂きましょうかな」 ナウダン代表が、戸惑いも怒りもなくした、妙に明るい声で少年に声を掛けた。見たくはないが、おそらく唇には笑みが刻まれているのだろう。 彼らはすでに、自分達の勝利を確信している。 負けてはいられない。 エレノアは下腹に力を籠め、背筋をグッと伸ばして、四州の執政官達と4ヶ国の代表達を睨みつけた。 負ければ戦争になる。 そうなれば、痛めつけられた自然の精霊が今度こそ息絶えるだろう。それはこの地に生きる自分達の滅びをも意味するのだ。 その時には、四州だけが生き残るなどということにはならない。我々は一蓮托生なのだ。 それにどうして彼らは気づかない……! エレノアの中に、ふつふつと怒りが湧き上がってくる。 もはや、「大賢者」を名乗る少年が本物であろうが何であろうがどうでも良い。 負けてなどいられるものか……! □□□□□ 新連邦中央議会大会議場。 その中央に巨大な長卓がある。その席の片側にはエレノア達最高評議会議員、彼らと向かい合う形で独立を宣言した四州の執政官とその随員達がついている。 そして彼らの長卓と直角に並ぶ形で設えられた卓には、新連邦中央政府の後ろ盾として眞魔国の使者、ムラタ・ケンと名乗る少年が、そして長卓を挟んで反対側に向かい合う形で設えられた卓には、四州の後ろ盾である大陸4ヶ国の使者が座っていた。 さらに、新連邦最高評議会議員が座る宅の背後には、集まれるだけの最高議会議員、四州を除く各州の執政官達が所狭しと肩を怒らせて並んでいる。その目はどれも憎々しげに四州の執政官達、そして仲裁と称してしゃしゃり出てきた4ヶ国の使者達を睨み据えていた。 これらの卓をぐるりと囲む形で傍聴席が用意されている。 ここには、今回の会議が新連邦の未来を決することを知る、政治、経済、行政、軍務に関る官僚や軍人、経済界を中心とする支配者層の人々が集まり、緊迫した雰囲気の中で目を凝らして会議進行を見つめている。 「我々は独立にあたり、新連邦と事を構えようとは決して考えてはいない。それは信じていただきたい」 ヴォーレン州執政官、いや、すでに罷免が決定されているからには、元執政官と呼ぶべきだろう男が言った。 「民は新連邦の一部ではなく、ヴォーレンという国を取り戻したいと考えているのだ」 「取り戻したいのは民ではなく貴公だろう。貴公は大シマロンによって奪われた玉座に、再び座ることができるかもしれぬこの機会を逃したくないと考えているだけだ」 そう指摘したのはクォードだった。 胸元で腕を組み、厳しい眼差しでかつて国王であった男を睨みつけている。 「……己が国を求める思いは、お主が誰より良く知っていると思うが?」 やはり一国の王太子であったクォードに対して、ヴォーレンの元国王が皮肉な口調で切り返す。だがクォードは、そんな男に対して鼻で笑ってみせた。 「確かに俺はもとラダ・オルドの王太子。だがその国はもうない。今あるのは新連邦ラダ・オルド州だ。今や俺の祖国はこの新連邦以外にはない…!」 きっぱりとそう告げるクォードに、傍聴席から拍手が湧いた。 ご立派なことだ。ヴォーレン始め、四州の執政官達の口元が皮肉と嘲笑に歪む。 「これは我々だけの望みなどではない。民の願いでもある。民は我々の独立のためであれば、どのような危難にも立ち向かう覚悟だ」 「その通り!」四州の一、タスマル・ルフトの元王も頷いた。「兵達も皆、我が国を護るためなら中央と戦うと誓っておる。我等の兵は、故国の復活のためならば死をも怖れぬぞ!」 その言葉に、エレノア達評議会議員は鋭く反応した。 「やはり貴様らの企みであったか…!」 「何がだ? 企みなどと言い掛かりめいたことを……」 「己の州出身の兵を囲い込んだであろうが!」 評議会議員の1人が卓を叩いて怒鳴った。唇を歪め、肩を竦める四州の執政達。 「兵達は、ただただ己の故郷に帰りたかったのだ。我が故郷、我が故国をこそ護りたいと集ったのだ! その思いを我らは汲んだだけのこと」 「よくも……!」 「議論をもっと、根本的なところに戻しませぬか?」 凛と響いたのはエレノアの声だった。 疲れ果て、弱々しくなっていた近頃のエレノアとは思えぬほど気の籠もった声に、人々の目が一斉に集中する。 「私達が、かつてはそれぞれ別の国であったものが、なぜこうして1つの国、新連邦として立つこととなったのか」 エレノアの厳しい眼差しがヴォーレン州始め四州の元執政達に向く。 「それは……」 「それは、力を合わせて大シマロンを倒したものの、長年の圧政と何より大地の崩壊により、誰より我々自身が滅亡に瀕していたからです。それぞれの国がそれぞれ自立することなど、あの時点では到底無理でした」 「それは……確かに……だが…」 「共に手を携えなくては生き延びられない。私達はそう判断しました。だからこそ新連邦という新国家を樹立させたのです。しかし、それでも滅亡は私達のすぐ目の前にありました。そんな私達を物心両面で救ってくれたのが眞魔国です。眞魔国の援けがなければ、私達は広大な大地と民を抱えたまま滅亡していたでしょう。それはもちろんあなた方も理解しておいでだと思いますが?」 「……それは……」 四州の執政達が眉を顰め、視線を逸らす。 「眞魔国の援助は我が国全体に公平に齎されました。とは言え、その土地によって復興の速度は違う。それは仕方のないことです。ですが、それ故にこそ、私達は、皆で手を携え、協力し合い、眞魔国から齎された奇跡の恵みを分け合って、共に復活の道を歩まねばならないのです。それを成し遂げてこそ、打倒大シマロンを誓って立ち上がったあの日以来の、真の勝利を得ることができるのです。分け合うべき恵みを奪い合い、独占し、そして反目し合うのでは、一体何のための団結だったのでしょう? 今、復興が進む州だけが独立することは、新連邦全体の復興を願い、無条件に救いの手を差し伸べてくれた眞魔国に義において悖り、また大シマロンとも、そして崩壊する大地とも戦ってきた同志に対する許しがたい裏切りとなります」 キッと目を上げ、エレノアは正面に居並ぶ元執政達を睨み据えた。 「今この場で、眞魔国の使者殿と、ここに集う同志達に謝罪し、独立の意志を取り消しなさい」 決して激高しない、感情を押し殺したエレノアの声に、議場はシンと静まり、四州の執政達が気圧された様に顎を引いた。 「……我等の独立は、民の願いだ……!」 ヴォーレン州の元国王であり元執政が、喉から絞り出すように声を上げた。 もはやそれ以外、彼らが独立を主張する根拠はないのだ。エレノアにも他の誰にも、当事者である四州の元執政達にもそれは分かっている。 突き崩せる。 エレノアは確信して身を乗り出した。 「四州の、いいえ、それ以外のどの州の民であろうと、独立を願う声などわずかも耳にしたことはありませんよ?」 「それは……このような場所にいて民の声が聞こえると……」 「執政官であるあなた方も同じです! 王を名乗っていたその昔から今日まで、あなたが市井の民の声を直接聞いたことがただの1度でもあったと、私に向かって、ここにいる全員に向かって言えるのですか!?」 「私が愚王であったと……!」 「事態の根本を間違えているとは思われぬのか!」 いきなり議場に響いた声に、人々の視線が一斉に動いた。 彼らの視線の先には、四州の後ろ盾である4ヶ国の代表、その主導的存在であるナウダン王国の使者が、立ち上がって拳を震わせていた。 「自然の崩壊も何もかも、魔族の企みだとなぜ思い至らぬのだ! こうして人間同士が反目するのも全て! 魔族の存在があるが故にだと!!」 眦を釣り上げ、口角泡を飛ばし、溜めてきた怒りを迸らせる男に、人々が顔を引き攣らせた。 「魔物の悪しき企みを跳ね除けるのだ! そして人間は人間同士、魔族の援けなど振り捨てて、その影響力から独立するのだ! それこそが正義であるとなぜ気づかぬのだ!!」 如何だ、エレノア殿! 真っ直ぐ見つめてくるナウダンの使者に応じ、エレノアも立ち上がった。 「あなたは何千年ものあいだ語り継がれてきた、何の根拠もない伝説にひたすら頼っておいでになる。確かに、魔族に全ての悪を押し付ければお心は楽になるでしょう。ですがそれは何の解決もこの世界に齎しはしないのです。私達は魔族と真の意味で出会いました。その上で理解したのです。人間は長い長い間、ずっと間違えてきたのだと。魔族は魔物ではありません。単に、私達とは違う種族に過ぎません。魔族の王は私達との共存共栄を望んでおられます。それ故にこそ、私達に援助の手を差し伸べてくれたのです。これを裏切ることはすなわち、人間という種の愚かさ、未熟さを露呈することに他なりません。あなたもいい加減、子供のお伽噺から卒業なされませ!」 エレノアに辛辣に言い返され、男の顔から一気に色が失われた。 「エレノア殿の仰るとおりだ!」次に上がった声はクォードだ。「そもそも、お主達がそれほど魔族を嫌うているというのならば、眞魔国の援助がなされる前に離脱すべきであったろう! さんざん援けてもらっておいて、自立できるまでになったとたん、あやふやな正義を主張し、魔族の友情を裏切り、いまだ苦境にある同志を裏切り、連邦を離脱することは、もはや卑怯卑劣という以外に言葉はない!」 そうだ! その通り! 最高評議会の議員達や、集まった他州の代表達がドッと立ち上がり、拳を振り上げて声を上げ始める。 「離脱するなら魔族の恵みを全て捨てていけ!」 「魔王の祝福を独り占めして、我らを切り捨てて、何が人間同士だ!」 「このまま独立などできると思うな!」 怒りが渦巻く議場で、四州の元執政達と4カ国の代表達の歯軋りの音が聞こえてくるようだ。エレノアは思った。 おそらく彼らは、「人間同士」という言葉にもっと力があると考えていたのだろう。 魔族とは即ち魔物であるという意識が当然の常識である生活を送っている彼らだ、これほど新連邦の意識が魔族に近いとは思わなかっただろう。 「今のあなた方に、独立など出来るはずがありません。そもそも、あなた方は民を飢えさせずにおくことができますか? できないはずですよ? どれほど復活が進んでいるとは言っても、それはこの新連邦内での比較に過ぎません。国家として独り立ちできる州はない。冷静に分析すればそれが分るはずです。民を養うこともできない状態で、あなた方は一体どうするおつもりなのですか?」 「それはあなた方が心配されることではない」 答えたのはナウダン代表だ。エレノアはキッと他国の男を睨みつけた。 「心配して当然でしょう! 四州は我が国の一部であり、その民は我が新連邦の民なのですよ? 余計な口を挟むのはお止め下さい!」 「四州が国家として立てば、魔族に負けぬ援助をする用意はあると言っているのだ!」 「あなた方の国とて、大地の崩壊は進んでいるでしょう。他国を援助する余裕などないはず」 「人間は人間同士助け合おうと考えているのは我々だけではない。魔族の介入を排除して、真に友情を結ぶべき相手を間違えない国家は他にも多くある!」 「小シマロンの様にですか? 彼らにしても、我々の戦いに介入してきたツケは大きかったはずですよ?」 「だが、シマロンの名を唯一引き継ぐかの国の影響力は、いまだ強大なのですよ、エレノア殿」 「もし」 それを告げる覚悟を決めて、エレノアは口を開いた。 「小シマロンを中心に、我々の国家運営に干渉しようとするのであれば、我々は全力でこれを阻止します。その時には……戦争になりますよ?」 それはもはや内戦とは呼べない規模のものになるだろう。 4ヶ国と四州の代表たちが、グッと唇を引き結ぶ。 「いまだ満身創痍のこの国で、自ら再び戦を起こすおつもりか…?」 「その覚悟はあると申しているのです。傷ついた国であるからといって、誇りまでをも傷つけられて、平気でいられるとは思われぬように。……もし戦となった場合、もちろんあなた方4ヶ国も参戦されるのでありましょうな?」 「それは」4ヶ国の使者たちが顔を見合わせる。「……四州の民の命が脅かされるとなれば、我らとて座視はできぬであろう。戦はもとより望まぬが、四州の、人間としての当然の願いと民の命を守るためとあらば、力を貸すことに吝かではない」 「ご立派ですが、お顔がお言葉を裏切っているようですよ?」 負けることが分かっている戦に、本当なら一兵足りとも派兵したくはないはずです。 断言するエレノアに、4カ国の使者たちが顔色を変えた。 「……息絶え絶えのこの国と戦って、我らが負けると仰るのか……!」 「負けるでしょう。なぜなら、私達は決して孤独な戦いを強いられるわけではないからです。あなた方は……」 魔族の軍を全面的に敵に回して、勝算がおありなのでしょうか? 勝手に眞魔国を参戦させてしまったが、ここはこれで押し切るしかない。 実際に魔族が人間の戦いに加わるかどうかが問題なのではない。今目の前に座る、魔族に対し最も強硬な彼らが、自分達の背後に魔族の影を見て、それに恐れを抱くことが、迷いを生じさせることが重要なのだ。 名を利用することの理解を、眞魔国に対して事前に確認しておくことはできなかったが、これは会議開催ギリギリにやってきた眞魔国の責任と言わせて貰おう。それに。 実際問題として、眞魔国が共に立ってくれない限り、自分達が自ら戦に突き進むことなどできはしないのだ。 「戦場に強力無比の魔族の軍隊が参入すれば、あなた方にとってどのような悲惨な結果となるか。よもや理解できぬとは申されますまい」 「魔族の威を借るとは……何たる恥知らずな……」 何とでも言え。エレノアはほとんどもう開き直りの心境で、歯軋りする男の言葉をせせら笑った。何の威を借りようが、どんな手段を取ろうが、何としてもこの交渉に勝たなくてはならない。新連邦は新連邦として、一丸となって復活の道を歩まねばならないのだ……! 一丸となって。 自分の胸に浮かんだ言葉に、エレノアは自嘲を笑みを浮かべそうになった。 事ここに到って、もしも四州が独立を諦めたとしても、それから一丸となることなどあり得るのだろうか……? 「人間は善き神々に護られておる! 魔物の浅ましき企みなどに負けるはずがない!」 立ち上がって怒鳴るのは、ナウダンとは別の国の使者だ。 「最後の一兵となろうと我らは戦い続けるぞ! そして最後は必ず人間が勝つ!」 「大シマロンは負けたぞ!」 どこからか飛んできた野次と、湧き起こった笑いに、使者が鋭く息を吸った。顔が興奮に赤黒く染まる。 「貴様等ぁ…!」 立ち上がって叫んだ使者が、発作でも起こしたようにブルブルと震え始めた。 「イシャド殿、落ち着かれよ」 ナウダンの使者が立ち上がり、イシャドと呼ぶ男の肩を抱きかかえるように椅子に座らせる。 「もうお分かりでしょう」立ったまま、エレノアは四州の元執政達と使者達に視線を巡らせて言った。「我々は四州の独立を認める気などありません。それでもと言うのならば、戦を覚悟なさい。大シマロンと戦って勝った我ら新連邦と、世界最強の軍事力を擁する眞魔国。この2つの国と真っ向から戦う覚悟があなた方にあれば、ですけれど」 言って、エレノアが背筋をピンと伸ばし、堂々と胸を張り、同じ卓につく全ての人々を睥睨した、その瞬間だった。 「僕達、あなた方の戦争に付き合う気なんてありませんけど?」 ………え? 後もう1歩と、さらに畳みかけようとしたエレノア。これは勝てると思い始めた新連邦中央の面々。 弱り果てていると踏んでいたエレノアの、意外な強さに歯噛みする思いの四州と4ヶ国の代表達。 彼らの顔から、一瞬、一斉に、表情が消えた。 突然耳に飛び込んできた台詞に、思考の全てが真っ白になったエレノアは、次の瞬間、勢いをつけて頭を巡らせた。視線の先に、眞魔国の使者である少年がいる。 「大賢者」を名乗る少年は、幼い子供がするようにカップを両手で挟み、啜るようにお茶を飲んでいる。 「……いま、なんと……?」 カップを口から離し、メガネの奥の大きな漆黒の瞳をきょとんとエレノアに向け、少年が小首を傾げる。 「ですから。眞魔国はどこの国が相手だろうが戦争なんかしません。ご存知でしょ? 僕達の偉大なる魔王陛下は平和主義者なんですよ? 絶対戦争はしない。魔族の民を、2度と戦の悲劇に巻き込ませないって決めておられるんです。戦争したいんなら、勝手にやって下さい。でも、絶対僕達を巻き込まないでくださいね?」 「………あ、なたは……!」 何を言い出すのだ、この子供は! エレノアは腹の底から溢れるような怒りに、目の前が真っ赤になったような気がした。 駆け引きではないか! このままでは内戦になる。いいや、他国まで巻き込んでの本格的な戦争になってしまう。 今はまだ、あの4ヶ国と同盟する国がどれだけあるのか、小シマロンを始めとして、一体何カ国が新連邦の内戦に介入してくる可能性があるのか、それも分らない状況なのだ。 その数が予想以上に多いとしたら。それらの国々が一斉に新連邦に攻め入ってきたとしたら。 その時には、四州の独立どころか、この広大な国土は蹂躙され、千切り取られてしまいかねない。それは、ようやく復活し始めた大地が、その力を根こそぎ奪われ、死の大地へとまっしぐらに変貌していくことに他ならない。 だが! この新連邦の背後に、強大な武力を持つ眞魔国が控えているとなれば、どれほど貪欲な国であろうと、戦に加わることに二の足を踏むはずだ。 確かに、眞魔国が参戦すると決め付けたことは勝手な振る舞いかもしれない。しかしそれに文句をつけるなら、もっと早くこの地に来て、我々と話を詰めておけば良かったのだ! というか、四州と4ヶ国の連中が本気で戦争をする気にならないよう、こちらは必死で牽制しているのだ。それくらい察しろ! この阿呆! ここまで腹を立て、人を罵倒─例え内心であろうと─したのは、数十年ぶりのことだ。 ……そう言えば、私は昔、娘とは思えぬほど気が荒いと父王から呆れられていたのだった。 怒り心頭でありながら、頭の隅でそんなことを暢気に思い浮かべている。そんな自分を不思議に思いつつ、エレノアは魔族の使者「大賢者」を睨みつけた。 同じ卓に付く同志達の顔が一斉に引き攣った。自分はよほど怖い顔をしているらしい。 だが、魔族の聖職者という少年は、怒ったこちらが阿呆らしくなるほどのんびりとした表情でエレノアを見つめ返していた。 「……ほ、ほほ、う……」 声がした。ナウダンの代表だ。 彼にしても意外だったのだろう。笑って良いのかどうなのか、よく分らない顔で微妙に表情を崩していた。彼の周りにいる他国の使者達も、眞魔国側のいきなりの発言に驚いたように目を瞠っている。 「…魔族の使者殿に伺うが……」 「はい、何でしょう」 あっけらかんと返されて、ナウダンの使者は一瞬言葉に詰まった。それからコホンと咳払いをすると、改めて少年に目を向けた。 「エレノア殿の仰るとおり、この交渉が上手く行かない最悪の場合、この新連邦において内戦が起こる可能性があります」 「ありますね」 「………だからその……眞魔国は新連邦と友好条約を結んだ同盟国であったはずだが……」 「ええ、そうですよ? ですけど、条約文書のどこにも、一方が戦争状態になった場合、もう一方が武力を持ってこれを援ける、なんて文章はどこにもありませんから」 「そ、それは…しかし……それでは同盟国の意味はないのでは? 新連邦を援助せぬことは、彼らに対する裏切り行為ではないのですかな?」 「そんなことありませんよ!」 少年がいかにも心外だと言いたげに声を上げた。 「軍事力を使わなくたって、友好国に対してできることはあると思います」 「ほう。例えばどんな?」 「例えばー……新連邦が平和になりますようにって、魔族の民が皆でお祈りするとか……」 議場の空気を、ざわりと上がった人々の不穏な声が掻き乱す。 クォードは目をギュッと瞑ったまま、ギリギリと歯を食い縛り、カーラは膝の上の拳を思い切り握り締めた。爪が掌に食い込む。横目で従兄弟を見れば、レイルは驚く様子も見せず、興味津々という顔でこの馬鹿げた芝居を見つめている。 ……この状況に、私は一体いつまで耐えられるだろう……。 ずっと立ったままのエレノアもまた、拳を怒りに震わせた。その思いのまま、少年の傍らに佇むコンラートに目を遣れば、長年信頼を傾け続けた男は澄ました表情で平然と立っている。……それがまた腹立たしくて堪らない。 「なるほど」ナウダンの声に呆れと嘲笑が混じっている。「まあ……魔族の祈り、というものを想像すると、少々怖ろしい気はしますな」 「他にもやれることがありますよ?」 「ほう、何でしょうな?」 ほとんど孫に声を掛ける慈父のような穏やかな声音でナウダンの使者が問い掛ける。 それに対し、「大賢者」がニコッと無邪気な笑顔で「はい」と応えた。 「独立を望む四州に対して」 「ふむ?」 経済封鎖をします。 無邪気な笑顔の無邪気な声で発せられた一言の意味を理解した者は、眞魔国の者以外1人も存在しなかった。 □□□□□ 「……ケーザイ…フーサ……?」 きょとんと顔を見合わせる人々の中で、誰かが「大賢者」に教えてくれと声を掛けた。 ムラタ猊下が、「はい」とにこやかに頷いて、顔をエレノアに向けて口を開いた。 「四州に繋がる街道全てを封鎖します。つまり人や物の移動を完全に止めてしまうのです。もちろん、山の中の間道も、それこそ獣道に到るまで、誰も四州には入れない、四州から外へ出ることもできない、そういう状態にします」 「………そ、んな、バカな……。出来る筈がありません」 バカバカしいと笑うエレノアに同調して、議場の人々からも失笑が溢れた。こればかりは四州、4ヶ国の人々も一緒になって嘲笑っている。 「戦争に繰り出すよりずっと少ない兵士で済みますよ? それから四州から魔王陛下のお力で精霊の力を抜き取ります」 「抜き取る…?」 「はい。精霊は陛下の祝福によって復活しました。精霊は元々その土地のエネルギー、大地の力ですが、一時的に他所へ移すことは可能です。それによって、四州は一気に大地の力を失います」 「……もし…そうなれば……」 「そうなれば、四州は枯れます。水は一滴も出なくなり、花も咲かず、実も結ばず、大地の恵みの一切が消え果ます」 笑っていた人々の顔が、嫌悪に歪んだ。大地が枯れる光景は、新連邦の人々にとってあまりにも生々しい光景なのだ。 「民は四州から逃亡しようとするでしょうね」 「でしょうね。生き延びるためにはそうするしかありません」 「では、民を四州から出して、空にしてしまうということですか?」 「いいえ? そんなこと考えていません」 「では……」 「四州から逃げようとした民は、その場で処分してもらいます」 「……しょ、ぶん……?」 「逃げようとすれば殺される。それが分れば誰も逃げようとはしないでしょう」 「……そのようなことになれば、四州の民は……!」 「死に絶えますね。王が降参するか、民が自ら行動もせずそのままでいるとしたら」 「……行動?」 「ええ。例えば反乱を起こして、独立を画策した王を倒すとか。でも、四州の独立は民自身の願いだと仰ってましたよね?」 ムラタ猊下の目が四州の元王であり元執政達に向いた。向けられた先の男達が、一斉に眉を深く顰める。 「それならば」元執政達の答えを待たず、ムラタが続ける。「その選択をした民にも責任を負ってもらわなくてはなりません。誤った選択のツケは、その選択をした者自身に返ってくるものですからね」 ……何ということを……! エレノアが怒りを露に呟いた。 平然とした顔で、何という惨いことを……! 「落ち着かれよ、エレノア殿」 評議会議員の誰かがエレノアに声を掛けた。 「貴女も仰っていたではないか。全く馬鹿馬鹿しい、絵空事でにすらならん話だ。そうでしょう? 四州を封鎖するなど……。そもそも四州には港がある。海はどうするのだね? どうやってこれを封鎖すると?」 「もちろん周辺国の協力によって、です」 「協力?」 「はい。周辺国の軍艦で港を包囲します。そして四州の港に入港することも、出港することもできなくします。もし無理矢理船を出そうとした場合は撃沈します」 議場がシンと静まった。ほとんどの人々の顔が恐怖で引き攣っている。 可愛らしい少年の口から語られる怖ろしい計画に、エレノアは胸の奥が凍ったような冷たさを感じていた。 「……何という残酷なことを考えるのですか、あなたは! そのようなことを口にすれば、魔王陛下が懸命に進めてきた人間世界との友好を、台無しにするとは思わないのですか……!」 あれ? 言葉とは裏腹に、表情はいまだ無邪気な少年のままの「大賢者」は、意外な言葉を聞いたとばかりに目を瞠った。 「おかしな事を仰いますね、エレノア様」 「私の言葉の、どこがおかしいと?」 「だってさっき仰ってましたよね? このまま四州が独立を諦めないなら戦争だって。誇りを傷つけられるのは我慢できないって。国が傷だらけだろうと、民が飢えや疫病に苦しんでいようと、自分達の誇りを護るためなら戦争をするんでしょう?」 「それは……!」 そんな言い方をされたら、自分達が民の苦しみなど気にも留めていないように聞こえるではないか! 怒鳴りつけようと口を開きかけて、エレノアは先ほど四州の元執政達と4ヶ国の代表達に向けて発した言葉を思い出した。 ……民などどうでもいいと言った訳ではない。だが……。 確かに、そう取られても仕方のない言い方をした、かもしれない……。だが! 「戦争になれば」ムラタ猊下が澄ました顔で言葉を続ける。「兵だけじゃない、民も巻き込まれて死んでいきます。あなた方の民も、四州の民も、そして巻き込まれた他の国の兵士も。同じことじゃないですか。あなた方が起こす戦で命を落とす民の数と、僕の策で命を落とす敵州の民の数。最終的にはさほど違いはありません。少なくとも、僕の策であれば、四州の民全てが命を落とすか、その前に王が降参するか、もしくは反乱でも起きて四州の王が倒れればそれで終わりです。でも戦になれば、一体どれだけの犠牲が続くかさっぱり分らないんですよ? 僕は残酷で、自ら戦を起こすあなた方はそうじゃないと、どうして言えるんですか?」 「堂々と戦いもせず、逃げ道を塞いでただ命が絶えるのを待つという、そのような策を思いつくということ自体が残酷であり、非道であると言うのだ! そのようなやり方、正義とは呼べぬ!」 四州の元執政の1人であり、王でもあった男が我慢ならんと立ち上がり、「大賢者」に向かって怒鳴りつけた。 対立していることも忘れたかのように、議場のあちこちから同調の声が上がり始める。だが同時に、何がしか思い至ったかのように改めて腕を組み、むっつりと考え込む様子を見せる者も、数はわずかだが存在していた。 聖職者であると自称する少年は、さも呆れたという様子で肩を竦めた。 「つまりこういうことですか? 国土を死者で埋め尽くして、大地を血潮で汚して、でもそれは『堂々とした』戦争なのだから構わないと? あなた方の『堂々』だの『正義』だの、命を奪われる民に何の関係があるのですか?」 エレノア様。 呼びかけられて、エレノアはハッと瞳を「大賢者」に向けた。 少年は、何の表情もない目で、真っ直ぐエレノアを見つめている。 「戦争は、貴女がつい先ほど、始める覚悟があると仰っていた戦というものは、その全ての始まりから無慈悲で、残酷で、非道で、理不尽なものなのです。そして、その刃によって最も被害を受けるのは、剣を持たない民達です。お伺いしますがエレノア様、もし戦争が始まったら、貴女は剣を持ち、軍の先頭に立って戦場に赴かれますか?」 「……そ、そのようなこと……」 「しないでしょう? かつての対大シマロン戦でも、貴女は常に後方にあったはずです。そしてここにおられる最高評議会や代表議会において、自ら戦場で剣を奮った方はどれだけいらっしゃいますか? ウェラー卿は別にして、僕の知っている限り、戦士として自ら戦い、そして今、一州の代表や要職に就いている方は、ラダ・オルドの元王太子殿、あなたや、せいぜい10人にもなりません。他の方々は、現在はどれほど高い地位にあろうと、実際の戦場を知らない方がほとんどだ」 だから何だと言うのだ。議場の誰かから刺々しい声が上がった。 「本当の意味で戦場を知っている人なら、戦を起こすと軽々に口にするはずがないと言っているのですよ。堂々であろうが卑怯であろうが、戦の惨さに変わりなどない。血煙の中、生死の狭間を生き抜いてきた者なら、その惨さ、おぞましさを己の身体で知り尽くしているはずです。王だの貴族だの、自分は偉いと、選ばれた存在だと、国土も民も自分の持ち物だと思い込んでいる愚か者ほど、自分の手は汚さず、自ら危険を犯さず、己が何より護らなくてはならない民に向かって戦いに赴けと、国のために命を捨てろと、自分という支配者を護るために死んで来いと、平然と口にするのです。傷つけられ、命を奪われ、大切な家族を奪われ、血泥の中で息絶えていくのは何の力もない民達です。彼らの恐怖も叫びも涙も、何一つ思いやることもなく戦という言葉を弄ぶ、そんな愚かな者達に僕の策を惨いだの非道だの言われたくありませんね」 議場に、重苦しい沈黙が広がった。 中央の卓につく、新連邦のまさしく頂点に立つ人々はただ唇を震わせ。 クォードは、閉じていた目を大きく瞠って、どこか見知らぬ者を見るように「大賢者」を見つめ。 その寸前まで怒りに震え、今にも席を立って怒鳴りつけようとしていたカーラは、冷水を浴びせられたかのように頬を引き攣らせ。 クロゥとバスケスは、大賢者の言葉を反芻するようにゆっくりと目を閉じ、深く息を吸い。 レイルは、紅潮した頬で瞳を輝かせ、ゴクリと喉を鳴らしていた。 そしてエレノアは、「大賢者」の言葉が自分の中に沁み込むのを待つように沈黙してから、徐に息を吐き出した。 「……もし戦を起こすと決意したならば、私は最高評議会議長として、その責任から逃れようとは思いません」 どんな結果になろうとも責任は取る。例え命をなくしても。 そのつもりで告げた決意に対し、「大賢者」は冷然と首を振った。 「無惨に散らされた万の民の命を、あなた1つの命で贖えますか? あなたが命を捨てたとしても、理不尽に奪われた民の命も、汚された大地も、決して元には戻りません。あなたの決意など、単なる自己満足ですよ」 王が決断する時には、それ相応の覚悟が必要である。と、自分は父王に厳しく教えられてきたし、我が子にもそう教えてきた。 民の命を握る王であるからこそ、決断は熟慮に熟慮を重ね、覚悟の上でなされねばならないのだと。 それを……自己満足と一蹴されてしまった。 エレノアは呆然とその場に立ちつくした。 「エレノア殿……」 評議会議員の1人が立ち上がり、そっとエレノアの肩に手を置くと、椅子に座るよう促した。 呆然としたまま、エレノアが椅子に腰を下ろす。 「……民の上に立つ者ならば」 ぎこちない沈黙の議場に流れたのは、低い男の声。クォードだ。 「まずは戦を起こさぬようにせよと。仰りたいのはそういうことであろうな…?」 「そう」ムラタ猊下が頷く。「もしくは、犠牲者を最小限にする努力だね。僕の策も、実際発動すればそう長くは続かない。とてもじゃなけど……」 言って、大賢者は四州の元執政達の顔を見回した。 「一滴の水もなくなって、国土が枯れ果てて、民が死に絶えるまで、我慢できる人たちとは思えないしね」 確かに、言われてみればその通りだ。クォードが応えて頷く。それならば、犠牲者は戦を起こすより遥かに少なくて済む。いや、この四州の元王達の性根を思えば、ほとんど犠牲者を出さずに済むかもしれない。 そこに思い至ったのは、クォード1人ではなさそうだった。 特に軍人階級の人々を中心に、深く頷き合う者が何人もいる。 「……いい加減になされよ」 胸を大きく上下させ、体内の空気を入れ替えるように呼吸をしてから、ナウダンの使者がゆっくりと議場に声を響かせた。 「そのような実現不可能な策について、何を御託を並べておるのだ。エレノア殿、立派に国を治め、名君の誉れ高いあなたが、魔族の小僧の戯言に心惑わされてどうなされるのだ」 皆々、よく考えてみるが良い! ナウダンの使者の呼びかけに、議場の人々の視線が集まる。 「この小僧が口にした策とやらは、元より叶うはずがない実に馬鹿げた大風呂敷。笑って切って捨てればそれで良い!」 「どうしてです?」 「大賢者」に問われて、ナウダンの使者が眉を顰めた。 「そもそもこの策とやらは、新連邦中央と眞魔国一国でなされるものではない。周辺諸国の一致協力が必要であろうが!」 「そうですよ?」 「それをどう取り付ける?」 「それならもう終わってます」 ……何、だと…!? ナウダンの使者はもちろん、人々の目が驚愕に見開かれ、愕然とした顔が一斉に少年に向けられた。 「……諸国の協力を……すでに取り付けた…だと……?」 「はい」ムラタ猊下が頷く。「僕が実行を決定し、それを知らせれば、この新連邦を囲む諸国が即座に街道、間道、港の全ての封鎖に動いてくれる手はずになってます。残っているのは、この新連邦だけですよ」 バカな! 四州、4ヶ国の代表、議場に集まった人々がさらに驚愕の叫びを上げた。 だが。 ……くっ、くくくっ…くく…っ。 突如、押え切れない笑いがその場に湧き起こった。 笑いは、最初は忍びやかに、だがすぐ、うねる様に大きくなり、最後には哄笑となって周囲の人々を圧倒した。 「く、はは…っ、はは、くは…くっ……はは、ははは…っ!」 わーはっはははは…っ!! 人々が呆然と注目する中、ナウダンの使者が額を押さえ、仰け反りながら、まるで狂ったように笑い続けている。 「……い、如何なされたのだ……!?」 同じ席に並ぶ随員や4ヶ国の他の使者達が、オロオロと立ったり座ったりしながら、どことなく腰が引けた様子でナウダンの使者の様子を見守っている。 「………いやはや……!」 周囲の不安げな様子に、もう充分と見たのか、まだ笑いの残る声でナウダンの使者がパンパンと額を叩いた。 「魔族というのは、何ともはや、哀れな種族であることよ…! 浅知恵と言うも愚かな……」 「浅知恵…?」 誰かの声に、ナウダンの使者が大きく頷いた。 「そうとも!」 それから彼は、議場に集まる人々を、わざとらしいほど大きな仕草で見回すと、「諸君、諸兄! 誇り高くも賢き人間よ!」と声を張り上げた。 「別に難しいことを考えるまでもない。頭に少々思い浮かべて見られるが良い。この新連邦とその周辺諸国の地図をな!」 「地図、と…?」 クォードが訝しげに言い、眉を顰めて宙を睨んだ。 「そうですとも、元ラダ・オルドの王太子殿。新連邦、周辺国の地図。こちらにおられる四州の一、タスマル・ルフトの一部が、どこの国と国境を接しているかを、のう」 言われて、人々が周囲の人々と顔を見合わせる。それからわずかの間も置かず。 ああっ! と、人々の驚愕の声があちこちから一斉に上がった。 クォードやエレノア、カーラやクロゥ、レイル達もまた、ハッと目を瞠り、思わず漏れそうになる声を押さえ、人々の反応を確かめ、それから「大賢者」に視線を向けた。 人々の反応を確認したナウダンの使者もまた、魔族の使者「大賢者」に嘲笑を含んだ視線を向けた。 彼らの視線の先には、いまだ無邪気に唇を綻ばせる「大賢者」と、なぜか澄ました表情のコンラート達がいる。 「どうやらまだ気づいておられんようだの。自分達がどれほど阿呆なことを口走ったか」 「僕、何かおかしな事を言いましたか?」 少年に問われて、ナウダンの使者は勝ち誇った笑みをその顔に浮かべた。 「やれやれ……。確かに、数千年に渡る言い伝えはお伽噺だったかもしれぬ。魔族がこれほど怖れるに足らぬ種族であったとなればなあ。……良い、教えて進ぜよう。貴公は先ほど、新連邦の周辺国に話は通してあると言ったな?」 「はい。四州を封じる手はずは済んでいますよ?」 「ところがだ。残念ながらそれはできてはおらんのよ」 「どういうことでしょうか?」 「四州の内、タスマル・ルフトはわずかではあるが……小シマロンと国境を接しておるのだよ!」 高らかに発せられた事実に、その日何度目かの沈黙が降りた。 「この意味が、お主らに理解できるかな? つまりだ、お主らがどれほど四州を封鎖しようとしたとしても、タスマル・ルフトと小シマロンが接しておる限り、完全な封鎖など不可能だということなのだよ。四州を干上がらせようなど、我らが許さぬ。小シマロンを通じて、我らは四州の民を救うであろう。我らとて、決して余裕があるわけではないが、魔族の非道な策に滅ぼされつつある民があるとなれば、人間の真の誇りを有する国々が我等の呼びかけに答え、彼らをきっと助けるであろう!!」 さあどうだ! ナウダンの使者の勝利に満ちた瞳が「大賢者」を射る。 人々はその気に呑まれたかのように、言葉を発することもできないまま、2人の使者をただ見つめている。 ナウダンの使者の鋭い視線と人々の眼差しをを受けて、「大賢者」はきょとんと大きな瞳をただ瞠っていた。 「………あ、あれ…?」 それまでの舌鋒が嘘の様に、少年の口から子供らしい戸惑いを乗せた声が漏れる。 クォードやエレノアの喉から、不思議なことに、落胆に似た息が溢れ出た。 「……僕ったら……ものすごく大切なことを忘れてました……」 「おや、今頃気がつかれたかな?」 ナウダンの使者に気味が悪いほど優しく問い掛けられて、賢者だという少年がコクンと頷いた。 「はい。ホントに僕ったらうっかりしてました。……ねえ、ウェラー卿」 少年が背後に立つコンラートを見上げる。 全く動じた様子を見せないコンラートが、「はい、猊下」とこれもまた落ち着いた声で応える。 「明日のお昼、だったよねぇ?」 「はい、猊下、仰せの通りです。明日、正午の予定となっております」 「うん。僕ったら、最初にそれを皆さんに申し上げることをついうっかり忘れていたよ」 「猊下とすれば、大変お珍しいことです」 「だよねえ。ついうっかりは君の専売特許だもんね?」 「恐れ入ります」 「……あのー、猊下、隊長、皆さん続きをお待ちですけど……?」 恐る恐る口を挟むお庭番を軽く一睨みしてから、ムラタ猊下は姿勢を戻した。 その顔は、恥を掻かされた自覚が微塵もない、実に明るい笑顔だった。 「失礼しました。それから大変お待たせしました」 「いや……」 あまりに妙な反応に、それまで余裕を見せていたナウダンの使者の笑顔が微妙に崩れた。 「僕、皆さんにお知らせすることがありました」 「……報せ?」 エレノアの反応に、ムラタ猊下が「はい、エレノア様」と律儀に応える。 「我が眞魔国は、明日正午」 「大賢者」が、人々をぐるりと見回す。 そしてそれから、無邪気な少年の表情のままの、可愛らしいほど無邪気な声で、きっぱりとこう言った。 「小シマロンとの、友好条約締結を発表いたします」 それこそが。 フォンクライスト卿ギュンターが中心となり、時間を掛けて締結に漕ぎ付けた、新たな友好国の名前だった。 →NEXT プラウザよりお戻り下さい。
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