「どういうこと、それっ!?」 彼は顔を蒼白にして叫んだ。 「天下一武闘会って……どういうことだよっ。もう大シマロンはなくなったんだぞ! どうしてそんなのが……! どこかが後を継いだのか!? …そっ、そんなことよりっ……どうしてそんなのにあんたが参加するってことになるんだよっ! あれは……!」 あの雪の日が、頬に当る冷たい風が、そしてあの時、あの瞬間、あの胸の痛みと混乱が、まるでタイムトラベルしたように実感として思い出される。 天下一武闘会。その名前で思い出されるのは、ただただ…。 彼の目にじわっと涙が盛り上がってくる。 「お、お待ちください、そうではなくて……」 「ダメだ! 絶対にダメだっ! 皆も何なんだよ、その顔! 検討するとか、そんな問題じゃないだろっ。いいかっ、おれは絶対許さないからな! そんなものに参加するのは絶対……!」 その時、彼の背中をつんつんと突っつく指があった。うるさげに振り払うが、指は全く諦めようとしない。 「絶対許さな……って、何なんだよ、さっきから!」 その指の持ち主は彼の親友で、その親友が今度は何も言わないまま彼を手招きする。 「……だから、何だってんだよ!?」 いきり立つ彼に、親友は机の上にある未決済の書類の山に手を伸ばした。 そしてそこから2枚の書類をひょいと手に取ると、机の上に裏返して置いた。そして徐にペンを取り、そこに大きく文字を書いた。「その書類は重要な……!」という声が2、3起こるが気にしない。 書類の裏にでかでかと書かれた文字はその世界の文字ではなかった。 「………何だ、この、やたらと線の多い記号、のようなものは……」 その場に居合わせた1人が、腕を組んで首を捻る。 彼の親友はその2枚の書類の上、端っこを摘むようにして持つと、彼の前に掲げて見せた。 その1枚には。 『天下一武闘会』の6文字。 そしてもう1枚には。 『天下一舞踏会』の6文字。 「…………およ……?」 彼がきょとんと首を傾げる。 「彼が今回参加を打診されているのは」 親友はそう言うと、1枚をぺっと放り投げた。裏はまだしも、表は国家の大事を決める重要書類がひらひらと部屋の隅へ飛んでいく。 残ったのは1枚。 「こっち」 彼は残った1枚を、でっかい瞳でまじまじと見つめた。 「……………およ…?」
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