「すみませんけど、もう一回言ってくれマスか?」 有利は、どこかわなわなと震えながら声を押し出した。 「だからー、東高の男子とのー、合コンにー、渋谷君にも参加して欲しいのー、って」 ほほーっ、と周囲からどよめきともため息ともつかないものが上がる。 場所は放課後の教室。 チャイムがなって、ホームルームを終了して、さあ部活だ、ゲームセンターだと皆が席をガタガタいわせ始めたその時、クラスメートの女子が二名、有利の傍らにやってきた。 ちなみに有利は帰宅部だ。友人との約束も特にないし、これからお誘いがなければ、本屋に寄って家に帰ろうと考えていた。そこへ。 いきなりコンパのお誘いーそれも何故か女子サイドのーを受けてしまったのである。 あまりにあまりな彼女達の言葉に、有利達三人はあっという間にヒマなクラスメートに取り囲まれてしまった。 「合コンっていっても、もちろんお酒なんか飲まないわよ。ファミレスで食事して、カラオケ行くだけ」 「そうそう。渋谷君って健全だしね。安心して、ねっ」 「……じゃなくてー……」 有利は何だか泣き出しそうだ。見兼ねたクラスメートの一人が助け舟を出した。 「男は東高のヤツらだろ? で、女子がこっち」 「そうそう」 「んで、なんで渋谷なわけ? こう見えてもこいつは男だぞ」 「こう見えてもって何だ、こう見えてもって! 俺は正真正銘、どっから見ても男だっ!!」 「と言ってるし」 「それがね、たまたま渋谷君が写ってる写真をみた東高の男子がねー、好みだから絶対誘ってくれっていってきて」 「勘違いした訳だな」 なぜか納得気に、級友達が頷く。 「その子がね、雪村君っていって、すっごいかっこいいのー。もー、絶対参加して欲しかったんだけど、渋谷君が参加するなら自分も参加していいって言ってくれてさー」 「渋谷君は座ってくれてるだけでいいから。ねっ、お願い。ねっ、ねっ?」 女子二人がばしっと手を合わせて拝み出す。有利は本来フェミニストだ。とは言っても。 「誰が出るか、そんなコンパっ! 男、渋谷有利は不参加ですっ!! その勘違いヤローにもちゃんと言っとけ!」 有利が足音も高く去っていった教室で、残されたクラスメート達が何となく顔を見合わせていた。 「渋谷君ってさ、入学した頃はもうちょっと男の子っぽかったよね?」 「そうそう。可愛かったのは可愛かったんだけど……。今程じゃなかったよねえ」 「心の準備なしにいきなり顔見たら、分かっててもドキッとする…って、友だちが言ってたな」 「それ、お前のことじゃないのか?」 「でも性格は結構熱血系だよな。中学の時野球部辞めたのだって、監督ぶん殴ったからってのは、有名だし」 「それを内申書に書かれて、野球部入れなかったらしいぜ」 「え、マジ?」 「そうそう。でもまあ、あいつ位、外見と中味のギャップがあるヤツも珍しいよな」 「んでもって、あれだけ無自覚ってのもな」 うんうん、とこれまた全員が深く頷いた。 「その東高のヤツが女と勘違いしても、無理はないか」 「…それがねー」 鞄をごそごそと探りながら、有利を誘った女子が口を挟んだ。 「雪村君が見た写真って、これなのよねー」 「………………」 「………………」 「………………」 「………………学ラン、着てるじゃん……」 写真には、数人の学生達に混じって、肩に鞄を担ぎ上げ、顔をこちらに向けている下校途中らしい有利の姿が写っていた。 「……渋谷ってさ」 誰かが呟く。 「けっこー可哀想なヤツかもな……」 せめて自分達だけは、渋谷有利を理解して、いい友だちでいてやろう。 その日、心優しいクラスメート達は心に深く誓ったという………。 プラウザよりお戻り下さい。
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