静かな部屋に一人、今日も眉間に皺を寄せ黙々と書類に目を通すグウェンダルが
いた。 いつもより皺が一本増えているのは気のせいだろうか。 それもこれも、いつものように執務を抜け出した第27代魔王陛下のおかげであ る。 そもそも、疲れたなどと駄々をこねるユーリを甘やかし、すぐに外に連れ出す自 分のすぐ下の弟が悪いのだが。 仕方ないと言う顔をしながら、内心ユーリと二人になれるということを嬉んでい る。 グウェンダルは、一通り書類に目を通し終えると、換気をするために窓を開けは なした。 「・・・・・・っん」 ぷっはぁ。 「///// っだから、ここ外だって言ってるだろ!!!!!」 聞こえてきたのは、自分の眉間の皺の種−ユーリの抗議の声だった。 もちろん抑えた声だったが、声の主が居る場所のちょうど真上当たる窓の開いた 部屋には、その声は嫌でも届いた。 嫌な予感を抱えながら、バルコニーに出てみる。 案の定、そこには顔を真っ赤にして俯いているユーリと、その反応を嬉しそうに 見つめるコンラートの姿があった。 「大丈夫。誰もみていませんよ」 「だからってなぁ〜。/////」 コンラートはまだ俯いたままのユーリを自分の方へ抱き寄せる。 ユーリは恥かしさに顔を相手の胸にうずめながらも、自分もコンラートの背に腕 を回す。 外だというのに自分からそんなことをするのは、自分たちが大きな木の陰に居り 、見られる心配はないと安心しているからだろうか。 グウェンダルが自分たちの真上に居るとは知らずに…。 「閣下、何を見ていらっしゃるのですか?」 不意に話しかけられ慌てて振り返る。 そこに居たのは、泣く子も黙るギーゼラだった。 ただ、どうやら今は普通モードらしく、どう間違ったらあんなにも恐ろしい鬼に 変わるのか見当も付かない、小柄な女性が立っていた。 「すみません。お声をかけたのですが返事が無かったもので。」 勝手に入ったことを謝る。 「いや、気づかなかった私が悪い。」 いくら外に気を取られていたとはいえ、軍人の自分が気づかなかったとは…。 「それで、何を見てたんです?」 そう言うと、ギーゼラはひょいと顔を下に覗かせる。 「あらあら。出歯亀ですか、閣下?」 コンラートの膝を枕にし、気持ちよさそうに眠るユーリ。 コンラートはその寝顔を愛しそうに見つめている。 その漆黒の髪に指を絡め、優しく丁寧に梳いてやる。 「違う。窓を開けようとしただけだ。」 いつもより声を更に低くし、そして眉間の皺を深くして言った。 そんな様子に、クスクスと笑うギーゼラ。 「そんなことより、何か用があって来たのではないのか。」 「そうでした。頼まれていた報告書です。」 そう言って、グウェンダルに書類を渡す。 グウェンダルは窓を閉め、自分の椅子に座ると、書類に目を通し始めた。 ギーゼラはグウェンダルが読み終えるのを待っている。 ふと、窓の外を見、さっきの情景を思い出す。 果たして、今までに自分はコンラートのあんな顔を見たことがあったであろうか 。 彼は変わった。 昔のころを、獅子と呼ばれた時代や、ジュリアを亡くした時の彼を知っている者 は、今の彼を見てあまりの違いに戸惑うかもしれない。 それくらい変わったのだ。 ユーリに出会い、今までに見せたことの無い表情を、感情を見せるようになった 。 そしてそれはすべてユーリに注がれる。 彼は一時期陛下の下を離れた。それも、陛下の為だったのだが。 そして戻ってきた今、二人は離れていた時を埋めるように始終一緒に居る。 「あの二人を見ていると、どこか切ない気持ちにさせられます。」 話しかけるともなく呟かれた声に、グウェンダルは顔を上げる。 「互いを思いあっているのが痛いほど伝わってきます。だから、時々怖くなるん です。」 グウェンダルはその言葉に首をかしげる。 「どういう意味だ。」 「想いは人を強くする。けれど、その逆に弱くもするのです。」 その例をもう自分たちは見てきた。 それはコンラートがシマロンに移った時。 彼を信じていた。だがそれだけでは押し寄せてくる不安には抗えなかった。 相手を想えば想うほど、自分の傍に居ない彼を責め、信じ切れていない自分に嫌 気が差した。 そして、ユーリは壊れかけた。 「もしまた・・・。いえ、今度こそ本当に相手を失ったら、どうなるんでしょう か。」 ギーゼラのその言葉にグウェンダルは眉を顰めた。 「最悪・・・・・。」 最後まで口にしなくても分かる、想い合う二人の末路。 どちらかを先に逝かせるなんてしない。 前の二人なら、自分が死んでも相手には生きることを望んだかもしれない。 だが、今は・・・ 「そうなったら、あなたはそれを止められますか?」 そんな質問にグウェンダルは、息を吐き、目を瞑る。 少し考えた後、諦めたというより、少し呆れたようにいう。 「少なくとも、奴を止めることはできん。止めても無駄だ。」 奴が誰を指すのか。ギーゼラも、そうですねと苦笑した。 ただ願う。 こんな話が現実しなければいいと。 どうか、あの二人から幸せを奪わぬように・・・・ END プラウザよりお戻り下さい
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