シンニチ(眞魔国日報)が魔王の結婚宣言をスクープした。 まったく知らされていない、いきなりの結婚宣言に十貴族の一人であり、魔王の婚約者の伯父だったはずでもあるフォン・ビーレフェルト卿ヴァルトラーナは、取るものもとりあえず血盟城へと馬を走らせた。 スクープ記事を入手してから3日後にフォン・ビーレフェルト卿ヴァルトラーナはこわばった表情で血盟城に乗り込んでいった。 執務室でサイン攻めにあっていた魔王と、珍しくその横で紅茶を飲みながら笑っている大賢者猊下。そしていつもよりも額の皺を増した宰相と見た目だけはいい王佐が入ってきた人物を見てびっくりして顔をあげたが、ヴァルトラーナは一切を無視してユーリに詰め寄った。 「魔王陛下!貴方がコンラートと結婚したという話は本当ですか?!」 「あ…え、ええ。はい…本当です。」 「魔王陛下ともあろうお方が人間との混血であるコンラートと結婚だなど…だいたい貴方は私の甥のヴォルフラムと婚約していたのではないのですか?いったいどういうことなんですか、ご説明願います。」 ヴァルトラーナは純血主義者である。 魔族こそ尊い種族であり、その血は何物にもけがされることを許さないという考え方の持ち主であった。そう言う考え方をする魔族もいまだに多く、その代表格ともいえる存在であった。 しかしユーリは魔族とか人間という事にこだわらず、誰もが幸せで平和に暮らせるな世界を築くために王になる決心をしたはずであり、それを実行していくことが彼のマニフェスト(政治公約)なのであった。 よってヴァルトラーナの発言はユーリにとって許せない発言となる。 「ちょ…おっさん!それ人種差別!!あんた人間との混血が嫌いって言うんだったら俺だって人間と地球の魔族の混血だ!」 ムキになってヴァルトラーナに怒鳴りつけたユーリをかばうように、村田健はアルカイック・スマイルを浮かべて助け舟を出した。 「そうだね、渋谷も僕も地球の魔族と人間の混血だ。君のように純血魔族を尊ぶ人の甥の結婚相手にはふさわしくないんじゃないかな?そいう言意味ではウェラー卿は渋谷とお似合いだよね。」 笑顔を浮かべている大賢者を見ているというのに、なぜかヴァルトラーナの背中に冷たいものが流れた。 「うっ!し、しかし…魔王陛下の結婚相手が地位も領地も持たない男だなどと、猊下が許しても十貴族として許さない!」 「地位?彼ほど地位のある男もいないと思うけどな?二度もこの国を救った救国の英雄だよ、そんな腕を持つ男に領地を与えて貴族のまねをさせるよりも、今みたいに魔王を守る護衛と近衛隊を指揮させていた方が腕が腐らずに済むと思わないかい?」 ヴァルトラーナの言うことをことごとく村田が論破していくのをグウェンダルとギュンターが同意するがごとくうなづいていた。それでも彼にとってはかんわゆい甥との婚約を解消してもいない状態で、混血と虐げてきた男との結婚は絶対に許せないのである。まさしく”ああ言えばばこう言う”であった。 「し、しかし奴の父親は旅の剣士でどこの誰ともわからぬ男なのであろう?!」 「ウェラー卿を陥れたくて仕方がないのはわかるが、この国で彼ほど血筋が高貴な男もいないんだよ。彼の母親、フォン・シュピッツベーグ卿ツェツィーリエは第26代魔王陛下。彼の父親であるダンヒーリー・ウェラーは大シマロンのベラール王家の正統な継承者だった男だ。つまり彼は大シマロンと眞魔国、二カ国の王家の血を引いているんだ。」 「た、たとえ血族が高貴でも奴は魔族とはいえ魔力がない。その魂が高貴とは言えないということではないか?!」 「ふっ…まったくああ言えばこういう。その魂がもともと魔族のものでないからウェラー卿は魔力がない、しかし彼の魂は君よりもはるかに高貴な者が持っていたものだよ。」 「私がコンラートより劣るというのか?!」 いくら理屈を言ってもヴァルトラーナはウェラー卿の足りないと思える部分をあげつらう。それはやはり人間との混血である彼が魔王の伴侶にふさわしくないという考えから抜け出せないでいるだけではなく、今では反対のための反対になりつつあった。 村田がメガネをくいっと指で上げると、静かにヴァルトラーナに語りかけた。 「今から4000年の昔、眞王と魔族は創主と戦いそれを4つの箱に封印した。それは知っているね?」 魔族であればだれでも知っている有名な史実である。ヴァルトラーナはうなずいた。 村田の話は続いていた。 創主を封じた箱は禁忌の箱とよばれ、二度と出てきてはならない物のため鍵をかけられた。そしてそのカギを眞王と共に戦った4人の体に宿した。 「でも、そんな重要なものをどう受け継ぐか、考えたことがあるかい?結論からするとカギは、形としては体の一部なんだけどその受け渡しは魂によるものなんだ。」 魂の一部にカギになりえる情報を埋め込みそれを受け継いでいったのだ。 「そして…禁忌の箱の一つのカギはウェラー卿の左腕であることがはっきりしている。それがどういう意味かわかるかい?彼は眞王と一緒に創主を倒し箱のカギをその身に宿した唯一の人間の王、ローレンツ・ベラールの魂を持っているということなんだよ。君の魂が誰のものであるか僕は知らない。しかしウェラー卿の魂がローレンツのものであることは僕が今証明した、それでも君は彼より高貴な魂の持主だというのかい?」 「わ、わたしとてその禁忌の箱のカギを持つものかもしれないではないか!」 「そうだね。箱のカギはあと3つ。やってみるかい?簡単なことだよ、君の体から左目か心臓、血液を取り出して箱に入れればいいんだ。」 「そ、そんなことができるか!心臓だとしたら取り出したら死んでしまうではないか!」 「渋谷の選んだ相手は地位も名誉も自ら捨て、裏切り者の汚名を着たまま死ぬかもしれない試練をくぐりぬけた男なんだ。そんな男と比べるのならばそれこそ腕だろうと胸だろうと命だろうとあっさり差し出す勇気がないと負けなんだよ。」 村田の言葉にヴァルトラーナははっとしたような顔をした。 村田の話は続いていた。 「僕はね、渋谷の隣に立つのにふさわしい人物は、彼と同じ心で、彼と同じ視線を持ち、同じ考えで動ける人物だと思っていたんだ。」 大賢者の言葉が静かになった執務室に響いていた。 魔族も人間も手を取り合って平和に暮らせる争いのない世界をめざしたい。 それが第27代魔王、渋谷有利が宣言した基本政策だった。 眞魔国内ですら誰しも彼に対して人間との戦争と勝利を望んでいた時、戦争の放棄を憲法に明記している国から渡来した国王が夢のまた夢の話を「やってみせる!」と言い切ったのである。 誰しも信じてはいなかったし、信じようともしなかった。 戦わない、話し合いでなんとかする! それが魔王の考え方であった。 それができるとも思わなかったし、やりぬけられるとも思わなかった。 しかし、有利は人間の世界に飛び込んでいっては彼自身を認めさせ、魔族を認めさせ、眞魔国を認めさせて行った。 これからも有利は人間との平和と共存を信条にこの国を治めていくであろう。しかし、対立している国が戦争を仕掛けてくる可能性も捨てられない。その時、有利のことを考えて行動してくれる人物が彼の隣に立っていれば、これほど心強い味方はいない。 「それがウェラー卿だったということなんだよ。」 ウェラー卿は最初に有利がこの国にきたときから彼の味方になり、彼の言うことを理解し、その意思を現実にするために動いていた。そのうえ唯一彼の心を守っていた男だということはすでに明らかであった。 「し、しかし、わが甥ヴォルフラムとて、その資格は十分あるではないか!」 「いや、残念だけど全くないんだよ。」 村田は以前、有利から聞かされた話をした。 「君の甥は渋谷の事を理解しようとしていないじゃないか。」 たとえば古式ゆかしい婚約の申し込み。 右手で相手の左ほほを叩くと眞魔国ではプロポーズを表しているが、有利達の世界では嫌な事をされたり、言われた時に対する”大嫌いだ!”という意思表示のようなものである。 ヴォルフラムは初めての会食で有利を怒らせてしまい、彼に左頬を叩かれたのであった。自称「愛の狩人」であり先代の魔王陛下であるツェツィーリエが婚約成立を宣言したが、異世界で育ち眞魔国の文化を知らない有利に、プロポーズをしたという意識がないのは最初からはっきりしていた。しかしヴォルフラムが眞魔国の文化を押し付け、形式で縛り、一方的に「よい婚約者であってほしい」という自分の意思を押し付けていた。 「渋谷が最初から「結婚する気はない」と一貫して言っていたというのに、聞く耳を持たなかったのは君の甥だよ。」 村田の言葉がヴァルトラーナに冷たく突き刺さっていた。 それだけではない。事あるごとにヴォルフラムが言う「へなちょこ」だとて同じである。 どうしてそういう行動に出るのか思いもせずに、ただ弱気をなじり、強くあってほしいと彼の意思を押しつけている。 ヴォルフラムに取っては有利を良き王にするために当然のことだと思っていたことであろうが、彼の「良い王」という観点が有利の目指す王と違っていたのに気がつかなかったのだ。有利は彼なりの王を目指すべきで、自分たちはその意思を具体化し、実現させていく家臣にすぎないはずだったのに、ヴォルフラムの観点にある「良き王」を押しつけていたのだった。 「これでもまだ、君の甥が渋谷のことを思いやっていると言うつもり?フォン・ビーレフェルト卿。」 「ならば何故、今の今までヴォルフラムとの婚約の件を解消させようとされなかったのですか?」 「僕は君の甥と渋谷の間に恋愛感情がない限り本当に婚約したとは認めていなかった。それでも彼が婚約者だというのを止めなかった理由はただ一つ。渋谷が心から愛し愛される相手が現れるまで、婚約者という存在が彼の操を守ってくれると思っていたからだ。その婚約者が君の甥ようなそこらへんの王族でもかなわないような血筋と、どんな美人でも二の足を踏むような顔立ちならばだれも文句は言えないと思っていたからだよ。まあ、純粋な渋谷を”婚約者がいる”って、ちょっといじめるのも楽しかったしね。」 「村田…やっぱり楽しんでいたんじゃないかよ…」 有利が大賢者とヴァルトラーナの言いあいを切ってくれたおかげで、グウェンダルがやっと口を挟むことができた。 「しかし猊下、コンラートの血筋のことは知っていましたが、魂のことは本当なのですか?」 「ああ、だって埋め込んだのは僕なんだから…もっとも、今の僕じゃなくて4000年前のもとの魂の持主だけどね。」 「それを聞いたら十貴族の中でも純血主義者がさぞびっくりするであろうな。」 「血統だの魂だのと言っているからこうなるんだよ。少しは相手の本質を見抜く力を持ってほしいものだね。」 村田の言葉に対してヴァルトラーナがぐうの音も出なくなったとき、扉の向こうから近衛兵の声が聞こえた。 「フォン・ボルテール卿にお伝えいたします、ただいま十貴族の方々が登城されました。」 「やはり来たか…」 「仕方無いよ、フォン・ボルテール卿。魔王が結婚したって聞いたら、あわてて飛んでくるのが筋だろ?丁度いいじゃない、十貴族会議で承認してもらおうよ。」 にっかりと笑う村田にグウェンダルはため息を吐きだしながらうなずいたが、大きな声を上げた者がいた、ユーリである 「うええええ?!十貴族会議?!ダメって言われたらどうしよう村田!」 「まったく…渋谷、君は今日執務室でフォン・ビーレフェルト卿に婚約解消を申し込んで断られた時、駆け落ちしてでもウェラー卿と一緒になるって言っただろ?それをはっきりと言えばいいんだよ。魔王である君が駆け落ちして困るのは彼らだからね。僕は君を失いたくないからいくらでも味方するよ。」 「サンキュー、村田!」 明るくうなずいてからヴァルトラーナに向き合ったユーリは、上目づかいで両手を合わせおねだりをした。 「なぁ、ヴァルトラーナさん。納得したなら俺の味方になってくれるんだろう?」 眞魔国一の美系であるユーリの「必殺王佐&宰相堕とし」に勝てる男はこの国にはいない。 「うう……。」 真っ赤な顔で唸るしかないヴァルトラーナをよそに、その場にいた人々はみな会議室へと歩いて行った。 そこへ伯父が来ていると聞いたヴォルフラムが駆け込んできた。 「伯父上!伯父上は僕の味方になりに来て下さったんですね?ユーリとコンラートの結婚を白紙に戻してくださるのですか?」 さんざんユーリにコンラッドへの思いを見せつけられてはいたが、ヴォルフラムはいまだに婚約者への思いを断ち切れなかった。できうればコンラートから決闘をしてでも奪い返したいと思っていたのであった。 しかし大賢者猊下から自分の考えをことごとくひっくり返されたヴァルトラーナは可愛い甥に逆に問いかけた。 「ヴォルフラム。お前は眞王の命とはいえ、魔王陛下の婚約者の地位を捨て、裏切り者と呼ばれ、魔王陛下に弓引くことになろうとも、一つの敵国の政権を眞魔国との戦争に陥らせることなく崩壊させることができるか?」 「…………。ぼ、僕はユーリに剣を向けることなどできない!」 「それが魔王陛下の目指す世界を実現させるためだとしたら?」 「それでも僕はユーリの婚約者として、傍にいて守ることを選びます。」 「では、おまえに問う。ユーリ陛下の世界では右手で相手の左頬を叩くのは「大嫌いだ!」という意思表示だとしたら?それでもお前は陛下の婚約者だと言い張るのか?」 「うっ…そ、それは…。それは誠なのですか?」 「先ほど大賢者猊下にそう言われた。」 「そ…そんな。ユーリはそんなこと一言も言わなかった。」 ヴォルフラムがぼそりと独り言を言うようにつぶやいた。 魔王陛下を支え、眞魔国のために尽くすのがこの国の貴族である。その中でも歴代の魔王を輩出していたのが十貴族なのである。稀に保身に走ったり地位や名誉、実権をほしがる輩がいないこともないのだが、眞王陛下以来の名君と国民に慕われている現魔王陛下に従わないと国民、しいては自分の領地にいる魔族の者たちが許さないのは明白であった。 ヴォルフラムが魔王陛下と婚姻すれば、ビーレフェルト領民が喜び、ヴァルトラーナにとっても名誉なことであったが、彼は甥の独り言を聞いて十貴族の一員としての決断を優先した。 「陛下がよその世界から来た事は知っているはずだろう?やはりお前には陛下に対する思いやりが足りなかったようだな。」 「ユーリに対する思いやり?」 青ざめた顔でつぶやくヴォルフラムに、ヴァルトラーナは先ほど大賢者猊下から聞かされた話をした。 伯父から聞かされた事はすべて身に覚えがある、その上有利のために裏切り者の汚名をかぶっても禁忌の箱と鍵である自分を遠ざけ、いつ殺されるかわからない、いつ死んでもおかしくない状況で、眞魔国との戦争に持ち込むことなく大シマロンの政権を実質的に崩壊させ、無事生還したコンラートとの違いを指摘され、ヴォルフラムはこともあろうに国家元首である魔王陛下に対して自分の意思や意見を押し付けていたことを悟った。 「そんな…僕が…僕がユーリのためにと思ってしてきたことは…全部自分のためだったというのか…。」 「そう言うことになる。それで婚約者を名乗るのはおこがましいぞ。私から潔く婚約を解消すると十貴族会議で発言する。」 「伯父上…」 自分を可愛がってくれていた伯父で、味方になってくれると思っていた人に最後通牒を突きつけられて、ヴォルフラムは唇をかみしめていた。 十貴族会議が始まった。 ヴァルトラーナとともに混血に対して差別意識があるフォン・シュピッツヴェーグ卿シュトッフェルが、魔王陛下とコンラートとの結婚に異議を唱えてこの結婚の白紙撤回を議題にした。 その議題に対して魔王であるユーリが「コンラッドとの結婚を認めてくれないと、どこかよその知らない国に駆け落ちしてやる!」と言い切り、血筋や魔力のなさによる魂の品位を問う貴族には先ほどヴァルトラーナに言ったことを村田が繰り返した。 眞王陛下以来の賢王とささやかれているユーリを失いたくない為か、村田の正論を論破できるだけの人物がいなかった為か、十貴族の反対意見が沈静化した時、フォン・カーベルニコフ卿デンシャムが手を挙げた。 「そういえばユーリ陛下はフォン・ビーレフェルト卿ヴォルフラム君とご婚約なさっているはずではなかったのですか?」 デンシャムの質問に有利が答えるより早く、ヴァルトラーナが手を挙げて発言し始めた。 「その件につきまして、私からご報告することがあります。先ほど我が甥ヴォルフラムとユーリ陛下の婚約のことで話をしました。ヴォルフラムは陛下に左頬を叩かれた事でプロポーズされたと言いましたが、陛下が異世界から降臨した事をすっかり忘れており、その行動はユーリ陛下の世界では嫌なことをされた奴に対する意趣返しだと本日大賢者猊下にお聞きするまで知りませんでした。われら眞魔国の貴族は魔王陛下の臣下であり、陛下の意思を重んじなければいけないというのに、わが甥は陛下が結婚の意思がないと言い続けているにもかかわらず一方的に婚約者を名乗っていました。よって双方合意の婚約をしていたとは言えず、本日ここに私はヴォルフラムとユーリ陛下との婚約は最初からなかったことだと言うことを宣言いたします。」 深々と一礼をするヴァルトラーナに対してパラパラと拍手が起こり、いつの間にかあっけに取られていた有利を除く全員が拍手をしていた。 そして採決の結果、十貴族たちは魔王ユーリとウェラー卿コンラートとの婚姻を認めた。 扉を開けて部屋から出たユーリは満面の笑顔で村田と握手をしていた。 「いやぁ!さすが東大A判定の天才児!神様、仏様、村田様!」 「渋谷〜!魔王が「神様、仏様」って、ヘンじゃないの。」 「いーの!なんてったって俺は日本人なんだもーん!それよりもホントお前ってすげーよな!十貴族の反論をことごとく覆してさ、もーーー!どこの弁護士よって感じでさー!頼もしすぎるぜ!!」 「まかせなさーい!僕は約束を守る人だからね。それよりも、渋谷には感謝すべき人が別にいるんじゃないの?」 「あ、そうだよ!ヴァルトラーナさんにお礼を言わなきゃ!」 そう言って有利はヴァルトラーナの姿を探した。彼はフォン・ウィンコット卿デル・キアスンと話していた。 「ヴァルトラーナさーん!」 有利がかまわず声をかけると、フォン・ウィンコット卿と一緒にヴァルトラーナも振り向いた。 「なにか御用でしょうか?」 「いや、あんたがホントに味方してくれるって思って無くてさ…ありがとうって言いたくて。」 「あ…いや…そんな…。」 何とも言えない表情をしているヴァルトラーナにデル・キアスンが優しげな笑顔で話しかけた。 「私もフォン・ビーレフェルト卿がヴォルフラム君との婚約は無効であるとおっしゃるとは思っていませんでした。それにしても文化の違いというものは凄いことなのですね。こちらでは良いことでも相手にしてみれば悪いことがあるなどと…私も想像付きませんでした。」 「いきなり目の前でカツラを外してあいさつされた時、俺もびっくりしたもんなぁ。でもこれからもっと増えていくよ。俺、もっとこの国を良くしたい。そのためにはもっとよその国との交流を増やさないといけないんだ。交流を深めてお互いがお互いの国の良い所を取り入れていけば、もっといい国になると思うんだ。」 ヴァルトラーナは改めて目の前にいる少年王を見直していた。 異世界から降臨したとはいえ、この少年はこの少年なりに眞魔国を良いと思える方向に導こうとしている。王の気質をすでに持ち合わせていたのだと実感したのであった。 その後、ヴォルフラムがコンラートに決闘を申し込んだ…というのは、また別のお話。 おまけの会話 「それで…渋谷。いったいどうやってあのウェラー卿にプロポーズされたんだよ?彼それこそこの国の貴族に虐げられて”俺なんか…”って考えの人でしょ?それとも君がプロポーズしたの?」 「え?」 「いやぁ、聞いてみたかったねぇ。あの渋谷第一主義の基本ネガティブ思考で本命にはヘタレになる男の口説き文句!それとも何?きみがいつものようにトルコ行進曲のついでにカマしちゃったの?眞王の許可は僕がちょいと睨んでおくからいらないよ。わざわざ二人揃って眞王廟までいちゃつきに来なくてもいいからね。」 瞬間湯沸かし器のようにいきなり顔から湯気が出そうなほど真っ赤になった有利を見ながら、村田はすでに”どーせ渋谷のことだから「Hしちゃって、もう他の人とは結婚できません!」って所なんだろう?”と答えを推測出来ているのに「しばらくからかう材料に事欠かないな」と思っていた。 眞魔国で絶対敵に回してはいけないのは大賢者猊下だったりするかもしれない。 |